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無理をさせた者が評価される「月曜朝イチで」という不条理

会社員たちの“日大アメフト問題”

2018/06/02
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他人の人生を軽く扱う者が生き残る

 こうして無理な数字にコミットさせる。日大の事例も、絶対者である監督に仮託するコーチが選手に約束を迫る。また、「やる / やらない」や期限を相手に言わせるのは強要やパワハラの常套手段である。あとで「やるって言ったよな」などと追い込むためだ。

 こうした非情を直接、強いた井上コーチは、5月23日の内田監督との会見でも「自分が追い込んだ」と述べている。その成果が、加害選手が記者会見で「あの時、違反行為をしないという選択肢はあったか」との質問に対しての「ない」との答えであった。マネジメントと人を追い込むテクニックとは紙一重にある。

日大の大塚吉兵衛学長 ©文藝春秋

「土日に働け」とは明言しないが、そうすることが暗黙の了解

“広告業界あるある”に、金曜日の夕方になっての、「月曜朝イチで」との要望がある。「土日に働け」とは明言しないが、そうすることが暗黙の了解にある。こうした「無理」を下の者や下請けに強いるのをためらうと、上から「下(や下請け)に甘い」と言われてしまう。上下関係ならぬ上中下関係が組織にはあって、中間管理職など「中」の人間は、そう思われないために、無理を強いることになる。

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 哀しいのは、長時間労働であれなんであれ、「無理」は無理をした者ではなく、無理をさせた者のほうが評価されることだ。「組織が生きるためには、はぐれ者の人生は軽く扱われなければならない」とは山之内幸夫の小説『悲しきヒットマン』の一文であるが、他人の人生を軽く扱う者が生き残る、それが会社を含め「組織」というものか。