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「JAに期待しない」説が覆るか、豊岡のブランド米

平田 そんな田んぼで作られた〈コウノトリ育むお米〉のブランド化に成功して、それが今すごく高い値段で売れてます。5キロ4000円近くですが、コウノトリ米は縁起がいいので引き出物とかに使われるんです。JAって農薬で儲けてきたから無農薬とか嫌うんですが、そっちのほうが儲かるっていうことがわかってきた(笑)。自然エネルギー政策に似ていて、回し始めるとどんどん技術が蓄積されていく。いま減農薬や無農薬は、普通に農薬を使った田んぼでの収量とあんまり変わらなくなってきたんですよ。値段は無農薬のほうが高く売れるから、そちらのほうが儲かる。豊岡のJAもすごく元気がいい。

内田 JAがこうした話題の中で出てきたのは初めてだなあ。僕は周防大島と鶴岡と朝来に知り合いがいるので、定点観測していますが、農業をやっている人たちからJAと一緒に何かやってるとか、JAに期待しているとかいう話はとんと聞いたことがないですね。先日、養老孟司先生とJAの『家の光』で対談して、若者たちの地方移住についてお話をしたんです。一度も話題にJAが出てこなかったので、しびれを切らして、最後に編集者が「先生、これからのJAに期待することがあれば、何かひとこと」って訊いたんですけれど、養老先生が、「JAなんか、なくてもいいんじゃない?」って(笑)。編集者、がっくりしてました。

平田 でもさすがに生き残りを賭けて変わり始めてる地方のJAはあります。城崎国際アートセンターにもJAが全面協力で、お米を原価で卸してくれていますし。豊岡市のエリア、つまり旧但馬の風土もあるかもしれません。もともと反骨の地で、戦時中に反軍演説をやって国会を除名された政治家・斎藤隆夫の出身地ですし、桂小五郎をかくまった宿が城崎温泉にあったりして中央から逃げてきた人をかくまったりするのに誇りを持つような風土ですからね。

内田 そうなんですか。割と変わった地域なんですね。これから急激に人口が減少していく中で、たぶん新しい動きは但馬のような「中央の統制の利かない」地域が勝手なことを始めるという形で生まれてきそうですね。

平田 豊岡市は、コウノトリも生きられる環境っていうことで今すごくエコで売り出すことに成功したから、次に市長が考えてるのは、アーティストも生きられる町(笑)。アーティストでも生きられるんだから安心してIターンで来てくださいっていう政策なんです。

内田 「アーティストでも食える町」というのはいいなあ(笑)。

©鈴木七絵/文藝春秋

Iターン成功の鍵は「おしゃれなカフェ」があること

平田 あと一番のポイントなのは、リベラルじゃないと女性のIターン者は来ないので、男尊女卑の強い地域は人を集められませんね。

内田 女性が行こうよ、という場所でないといけないんですね。70年代に全国学園闘争の後にも一度地方移住の機運があったんです。ナロードニキ的な「大地へ帰れ」とか、毛沢東の「農村が都市を包囲する」とか、そういうイデオロギー的な帰農運動があった。アメリカのヒッピームーヴメントやカウンター・カルチャーと軌を一にするものだったのですけれど、この運動はイデオロギー主導・男性主導でした。この帰農運動は短期的なものに終わったわけですけれど、3.11以降に起きてきている地方への動きは、藻谷浩介さんに教えてもらったんですけれど、女性が主導してるんだそうですね。女性が子どもを連れてどんどん地方に行ってしまって、男は後からついてゆく、という。女性が選ぶ移住先の条件ってなんなんでしょう?

平田 まずおしゃれなカフェ。保育園に子供を預けたあとにママ友としゃべれるカフェがあること。

内田 カフェが一番ですか(笑)。

平田 はい。次がイタリアン。もちろん子供の医療費無料とか、そういう医療・教育も大事ですが、あとはリベラルな雰囲気が大切です。うちの母が東北出身なのでよくわかるんですけど、いまもう盆や正月も帰らないでしょ、女性が働かされるから。まだ実の娘ならわかるけど、なんで里帰りして嫁が働かされるのか、一番理不尽。豊岡市はお盆やお正月はホテルが満室になるんですよ。要するに実家に行かない。でもそのほうが舅、姑さんたちもかえって安心で、お互いに気を遣わなくてすみます。嫁が来たら働け、みたいな地域にはIターンどころかUターンも行かないんですよ。

 本にも書きましたけど、うちの劇団員が青森の人と結婚してふたりとも東京で暮らしてるんですが、法事で帰ったら、女性たちはずっと台所で働かされて、男は豪華な食事して酒飲んでワイワイ騒いでる。一番ショックだったのは、女性は食事が台所で立って焼きそばだったんだとか。そういうことがいまだに普通に行われているところに女性が帰らないのは当たり前です。あと、壇蜜さんをPRビデオに使ってるような県には帰らないんですよ。

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