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これから住むなら「東京」より「センスある地方」のほうが断然いい――内田樹×平田オリザ

内田樹×平田オリザが語る「人口減少社会」#1

note

麻生大臣の失言のたびに日本の人口は……

内田 それってどういうPRだったんですか?

平田 別に壇蜜さんが悪いわけではないのですが、宮城県の騒動になったPRビデオが、壇蜜さんがエロスを漂わせて、「こんないい県なかなかない」みたいな。本当にあれは象徴的で。仙台って支店経済の都市で、男性中心の単身赴任の街。県知事も自衛隊出身で、本当に男性社会で、男が増えれば女はついてくると思ってる時代のU・Iターン政策なんですよ。最悪のPR動画だったのに、知事は話題になったからいいみたいに言っていて、あれで失ったものの大きさに気がついてない。麻生さんの次ぐらいにかわいそうです。っていうか僕、麻生さんが失言するたびに、日本の出生数が5万人ぐらいずつ減ってると思う。

内田 (笑)。

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平田 将来増えるはずの人口が5万人ぐらいずつ減ってる。だってあんな発言聞いて女性からしたらこんな国で生みたくないでしょ。最速の人口減少対策は、麻生さんを辞めさせることですよ。できれば安倍さんも辞めたほうがいいけど、まずは麻生さんは辞めさせないと、喫緊の課題ですよ!
(客席拍手)

内田 これからの新しい社会の変革は、地方で中央の統制が弱いところから自然発生的に起こってくるということですね。そしてもうひとつは女の人が始動していく形の運動になる。僕は凱風館という道場のほかに、寺子屋ゼミというのをやっていて、学術的な発信拠点としていろんな方をお招きして、お芝居や浪曲、落語やコンサートをしていますが、そういうイベントも含めて、道場を仕切っているのは全部女性なんですよ。僕は「神輿」としてみんなに担がれてるだけで。担いでるのはほとんど女性です。仕事を手際よく片付けてくれる人たちに任せていたら、気づいたら女性ばかりになっていた。まあ、男性は平日の昼間とか身動きできないから仕方がないんでしょうけれど、それでも、新しいことを始めるというとき、だいたい女性が仕切るようになってきたという傾向は、いずれ全部の業種で起こりそうな気がします。

平田 演劇関係でも、20代、30代で実力どおりでちゃんと登用すると女子ばかりになるんですよね。

©鈴木七絵/文藝春秋

止まらない女性の頭脳流出

内田 僕は昭和大学という医療系の大学で理事をやっているんですが、すでに入学者の60パーセント以上が女性です。医学部だけはまだ男子が多くて、女子は4割ぐらいなんですけど、あとは全部過半数を越えています。理事会でも、このままいったら女子大になっちゃうね、という話が出るんです。でも、成績順に取っていると、そのうちに90パーセントくらい女性になってしまうかも知れないです。大学入試は学力だけで性別関係ないですから、これからいろんな職種で女の人が全部上のほうにいっちゃうんじゃないですか?
 
平田 そうなんですけど、でも全大学教員の3分の2はまだ男性で、国立大学の場合、ちょっと古い数字ですけど女性の教員は1割。ではどうなってるかというと、優秀な女性は海外にどんどん流出している。僕は演劇の仕事でよくアメリカの大学を回るんですけど、受け入れてくださるのはとんでもなく優秀な日本人教員で、自分の研究をしながら日本語教師をやっているような方。もう日本の大学なら、「すぐに学部長になってください」と言いたくなるような優秀な女性がたくさんいて、特に文系の頭脳流出はもう最終局面に来ているといっていい。

内田 それはわかりますね。僕がもしいま18歳ぐらいだったら、日本の大学にはたぶん行かないと思う。でも、灘高の進学先を見ると、いまだに東大とか京大なんですよね。海外の大学に進むのはほんの数人です。日本で一番勉強ができる高校生たちですから、半数くらい海外の大学に出て行ってもぜんぜん不思議ではないと僕は思うんですけれど、そうなっていない。これ、けっこうショックでした。