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連載松尾諭「拾われた男」

松尾諭「拾われた男」 #15 「内見を50回繰り返して、婚約者と幡ヶ谷の新居にたどり着いた日」

2018/06/10

genre : エンタメ, 芸能

 二十歳を目前に控えて、家出同然で始めた一人暮らしは、阪急神戸線の塚口駅から徒歩十分くらいの場所にあるワンルームマンションだった。風呂もトイレもエアコンも完備されていて、築年数も五年という、大学生にはもったいない物件だった。そこに住む友人が強く奨めてきたので、家賃は決して安くなかったが、大学生活を満喫するためにはお洒落な部屋に住むことが必須だという下心が手伝って、入居を決めた。だがやはり、親に家賃を払ってもらっている友人とは違い、高額な家賃や光熱費を自分で稼がなければならず、アルバイトに追われる生活が始まり、授業に出る暇はほとんどなくなった。

KAAT神奈川芸術劇場×世田谷パブリックシアター「バリーターク」に松尾諭さん出演。撮影:細野晋司  兵庫公演:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール 6月16日(土)・17日(日)

住んでみると、思っていた以上に恐ろしい場所

 塚口では二年ほど暮らし、部屋の更新を機に引っ越すことにした。理由はもちろん家賃と更新料が高かったからだったが、その頃は大学へはほとんど行かず、大阪で夜遊びをすることも多くなっていたので、盛り場に近くて、安い物件を探しに、バイトの先輩から紹介された天王寺の不動産屋を訪ねた。たしかに天王寺から南のエリアにはお手頃な物件が多くあり、その中で最も条件が良かった物件が西成区の岸里にあった。風呂もトイレもエアコンも完備されたワンルームマンションで、築二十年、二階の角部屋で陽当たり良好、家賃は五万円だった。聞くと、前に住んでいた住人が出たばかりで、部屋のクリーニングはまだ入っていなかったが、クリーニングが必要なければ、家賃二ヶ月分に相当する初期費用を無料にしてくれると言うので、その日のうちに部屋の内見をさせてもらった。

 そのマンションは国道の大きな交差点から一本入った場所にあり、駅からも近かった。部屋に入ってみると、クリーニング後と言われても気付かないほどに汚れもなく、マンションの目の前が駐車場のおかげで、遮られることなく差し込む陽の光が余計に部屋を美しく見せた。非の打ち所は特になかったので、その日のうちに契約をした。

 大阪の西成といえばガラの悪いイメージがあったが、住んでみると、思っていた以上に恐ろしい場所だった。引っ越してすぐに気がついたことは、まず夜が暗いことだった。駅からそう遠くないにも関わらず、街灯がほとんどなく、しかもマンションの廊下の三つある蛍光灯も一つしか点いておらず、夜中に家に帰るといつもその闇に恐怖した。一月経って、まだそんな暗闇に慣れないころ、一つ目の事件が起きた。