文春オンライン

「ピチカート・ファイヴは売れるはずがない、と思ってました」――小西康陽×速水健朗×おぐらりゅうじ #1

「速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである」

note

アイドルはずっとやりたかったんです

速水 その後、作詞や作曲、編曲にアレンジと、トータル的な音楽プロデュースをしていくわけですが、ご自身ではどれを優先していくというか、得意だなと感じていましたか?

小西 自分では全然わかってなかったですね。流れとしては、90年前後までは作詞の仕事ばっかりで。その後に、バンドをプロデュースするような仕事が来るようになって、90年代半ばからは作詞・作曲を含めたプロデュース仕事が増えて、90年代後半からはリミックスの仕事ばっかり来てました。

 

おぐら 僕の世代の印象としては、リミックスのイメージが強いですね。

ADVERTISEMENT

小西 そうですよね。

おぐら あの頃、〈readymade mix〉のクレジットをどれだけ見たことか。

速水 ピチカートの作品では、楽曲はもちろん、ジャケットや衣装、映像にいたるまでトータルで小西さんのこだわりが反映されていますが、職業的な仕事のほうはそういうわけにもいかないですよね。

小西 作家の仕事のほうは、歌う人に会ったこともない、みたいな場合もけっこうあったので、完全に別ですね。

おぐら そういう場合は、歌う人のことを入念に調べるんですか?

小西 詳しく調べたりはしません。なんとなくのパブリックイメージです。さすがに何も知らないと書けないので。

速水 水谷麻里あたりからアイドルへの楽曲提供が始まってますけど、アイドル仕事には最初から前向きでしたか?

小西 アイドルはずっとやりたかったんです。

おぐら でも小西さんが手がけると、やっぱり王道のアイドルソングとは違った文脈になりますよね。

小西 だから、本当に売る気があるときには、僕に声はかからないですよ。

速水 それよりは、音楽性を深めるとか、ちょっと違う路線にいきたいときに。

小西 そうそう。シングルA面の曲で依頼が来るようになったのは、三浦理恵子さんの『日曜はダメよ』(1991年)からですね。でもこの曲のアレンジは僕ではなく、船山基紀さんです。

速水 歌謡曲のど真ん中の人ですよね。三浦理恵子の『日曜はダメよ』は、知る人ぞ知るアイドルポップスの隠れた名曲です。あらためて聞いても超絶名曲!

 

小西 僕も20年以上聴いてなかったのですが、今回このアルバムのためにマスタリングルームで聴いたら、三浦理恵子さんの歌のうまさに感動しました。

おぐら 絶妙な歌唱力ですよね。

速水 そのあたり聞きたいです。小西さんにとっての「歌がうまい」って何か。普通の歌唱力とは関係ないですよね?

小西 まさにそうなんです。いつも自分にとっての「歌がうまい」と、一般的な歌唱力というのが全然違っていて、常にギャップがある。

おぐら 小西さんは、歌唱のどういうポイントに魅力を感じますか?

小西 女性の場合は、チャーミングでありながら、セクシーさも持ち合わせていることが大事だと思うんです。そういう意味で、小泉今日子さんは僕にとって、歌手としての理想像のひとつ。彼女は歌謡曲の伝統的な歌い方を更新している人なんですよ。それで今回、三浦理恵子さんもそういう人だったんだなって、今さらながらに気づきました。アルバムを通して、『日曜はダメよ』が一番の発見でしたね。

 

速水 どこかのインタビューで小泉今日子の『まっ赤な女の子』のアレンジを聴いて、職業的ポップス作曲家のすごさに感銘を受けたと言ってましたよね。

小西 具体的に言うと、『まっ赤な女の子』のB面に収録されている『午後のヒルサイドテラス』という曲です。こういうポップスを自分は、あるいは高浪君と僕はやりたかったんだっていう。

おぐら その意識はピチカート・ファイヴでも変わらず?

小西 根底は変わらずですね。

後編に続く)
写真=山元茂樹/文藝春秋

「ピチカート・ファイヴは売れるはずがない、と思ってました」――小西康陽×速水健朗×おぐらりゅうじ #1

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー