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「日本一選挙に強い男」中村喜四郎は、なぜ新潟県知事選に本気で挑むのか

幻の中村喜四郎独白録「私と選挙と田中角栄」#1

2018/06/08

genre : ニュース, 政治

 69歳のベテラン政治家が、永田町の玄人たちをざわつかせている。衆院議員・中村喜四郎。衆院選で14戦無敗を誇り、「最強の無所属」の異名を取るその男が、地元・茨城から遠く離れた新潟の地で神出鬼没の動きを見せている。

 新潟県知事選(6月10日投開票)の告示前日、中村は県内で講演した小泉純一郎が、野党6党派が推薦する女性候補者と握手する場面をセット。1990年代の自民党で中村と盟友関係にあった山﨑拓を通じて、小泉の意向を水面下で探り、超党派の「原発ゼロ共闘」を演出した。

中村喜四郎(左)と小泉純一郎 ©常井健一

衆院ナンバー3の古株でありながら

 告示後も3度にわたり新潟入り。自民・公明両党が支持する男性候補者と競り合う中越地方で「極秘のローラー作戦」を展開し、同地方のホールでは500人の聴衆を前に「新潟から女角栄を生みだしていただきたい」と熱弁を振るった。選挙戦終盤には野田佳彦とともに街頭でマイクを握り、知られざる雄弁家の一面を見せつけた。

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 議員生活40年。小沢一郎、野田毅に次ぐ衆院ナンバー3の古株でありながら、一部の政治通を除けば、忘れられた存在だ。それも無理はない。1994年3月にゼネコン汚職事件で逮捕され、自民党を離党してから四半世紀が経とうとしている。その間、国会の議場では1度しか発言したことがないのだ。

 しかし、衆院茨城7区では熱狂的な支持を集め、麻生太郎側近の自民党現職に5戦5勝。中村の応援に森喜朗や古賀誠ら引退した大物たちが入ったこともあり、同じ中学校の後輩である公明党代表の山口那津男とも気脈を通じている。比例復活なし、政見放送なし、選挙カーは1台限り――などという無所属の制約をものともせず、服役中で出馬を断念した2003年の総選挙を除けば、無双の勝負強さで「孤高の1議席」を守り続けている。

マスコミ嫌いの中村が、1度だけ師匠・角栄について語った

 そのしぶとさは、ロッキード事件の逮捕後も選挙区トップで5戦全勝した新潟の偉人・田中角栄を彷彿とさせる。事実、中村は「田中角栄秘書」を政治の原点としている。選挙戦術、スピーチ術、人心掌握術に至るまで、20代の頃から見よう見まねで学び取った。果たして、40歳で「戦後生まれ初」の入閣を成し遂げ、一時は「将来の総理候補」と目された。その後、事件で転落してもなお、政界の重鎮からは「日本一選挙に強い男」(小泉純一郎談)として一目置かれている。

田中角栄 ©文藝春秋

 マスコミ嫌いで知られる中村が政治家人生40年の中で、たった1度だけ、師匠・角栄について饒舌に語ったことがある。4年前の2014年、私(常井健一)が担当した初の単独インタビューである。その時は一部のコメントを「文藝春秋」(2014年8月号)に寄稿した角栄の人物評伝に載せただけで、紙幅などの都合上、愛弟子による「オンリーワンの角栄論」を十分に読者に届けることができなかった。

 だが、今回の新潟県知事選、中村が継承した〈角栄直伝の選挙戦術〉が投票結果をどれだけ左右するか――が一部の政界関係者の間で注目されている。これを機に、長く封印されていた「幻のインタビュー」を思い切って公開し、中村の原動力になっている田中角栄との師弟関係に迫りたい。

(文中一部敬称略。政党名などは2014年当時の呼称で記載してあります)