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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『ワンダー 君は太陽』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

正しいこと、優しいこと

2018/06/10

 わたしは、じつは“正論モンスター”という二つ名を持っている。

 そりゃまぁそうだが、いまそんなこと言っても仕方ないような正論を、やたら言ってくる人が、あなたの周りにいませんか? わたしもそのタイプなんです。なんか、いつも、すみません……。

 だから、この映画を観てよかったと心から思った。“正しいことより大切なもの”を描くヒューマンドラマだったからだ。

 舞台は現代のNY。主人公は十歳の少年オギー。頭脳明晰でユーモアあふれる子だが、遺伝子の疾患のせいで顔が崩れている。裕福な両親のもとで長らく自宅学習してきたが、このたび一般の小学校に編入することとなった。

 新生活は波乱の連続だ。お金持ちのいじめっ子に嫌がらせされたり、奨学金で入学した苦学生と親友になれたり。

 そんな中、ある日、校長先生がいじめっ子のママを呼びだした。彼女はこう反論する。

「うちの息子は悪くありません。だって、不幸な人すべてに尽くせると思うの? そんなの非現実的な教育だわ」

 出た、正論モンスター!

Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 ……じつは、このクソばばあの主張が少しだけ理解できてしまって、わたしはそれをとても恥じた。正しいことを言いたがる人って、要するに“自分が損したくないだけ”なんだと自覚したからだ。

 オギーのそばにはそういう人はいない。みんな愛しあっていて、ハッピーだけど、ママは仕事をあきらめた。姉も、己のことを後回しにし続けるせいで慢性の孤独を患っている。全員がちょっとずつ犠牲を払いあい、できることを持ち寄りながら、多様性のあるコミュニティを作ろうと努力し続けているのだ。

 オギーがクラスにやってきた日。担任教師が生徒達に教えたのは、“正しいことと優しいことがあったら、優しいことを”という標語だった。

 わたしも一緒に授業を受けたような気持ちでした。

INFORMATION

『ワンダー 君は太陽』
6月15日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
http://wonder-movie.jp/