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連載高野秀行のヘンな食べもの

犬の××そっくり! トルコの生羊肉ハンバーグ――高野秀行のヘンな食べもの

2018/06/12
イラスト 小幡彩貴

 トルコ南東部のシャンルウルファという半砂漠の町に行ったときのこと。七月だったが気温が軽く四十度を超す猛暑。どうしてもビールが飲みたくなり、ふらふらと町をさまよっていたら、街角の食堂でごっついおじさんが何か肉を捏(こ)ねているのを見かけた。

「おっ、チーキョフテじゃん!」羊の生肉で作るハンバーグのようなもので、この町の名物だと英語のガイドブックに書かれていた。でも同時に「夏場に食べたら確実に胃腸をやられる」とも警告されていた。もともと中東では肉の生食はほとんどしない。なのに、どうしてこんな砂漠っぽい酷暑の土地でそんなものを食べるのだろう。すごく気になったのだが、なんせ今は脳内がビールのことでいっぱいであり、その食堂にビールは置いてない。残念ながら通り過ぎた。そして結局食べ損ねた。

 後で思い返す度に「あれはヘンな料理だった。食べておけばよかった……」と“逃した魚”のように悔やんでいたところ、中東料理研究家のサラーム海上さんがなんと「チーキョフテ、作れますよ」と言うじゃないか。喜んで教えてもらうことにした。

 日本で難しいのは生の羊肉を入手すること。でも探したら、麻布十番にニュージーランド産のラム肉を生で売る店があったので、そこで挽肉にしてもらった。その他の材料はパセリと万能ネギのみじん切り、ニンニクのすり下ろし、赤唐辛子粉、レモン汁、トマトペースト、オリーブ油、塩、コショウ、それにブルグルという二ミリくらいの大きさの小麦粉の粒。想像以上に生肉以外の食材を投入するのだ。

 作り方は簡単。全ての材料を大きなボウルに入れ力をこめて練るだけ。三十分ほど練り、粘土状になったら、サラームさんは「これで完成」と言う。「は?」という感じだ。なにしろ、ハンバーグのタネにしか見えない。これを加熱しないとは不自然にもほどがある。

タネをこねる
ハンバーグのタネにしかみえないが完成

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