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連載高野秀行のヘンな食べもの

2018/06/12

 二十分ほど寝かせたあと、仕上げ。生肉ダネを片手でちぎってギュッと握る。手の中でタネが潰れて、一部はにゅうっと出てくる。細長くなったものをトレイの上に置いていく。「うーん、色といい、この感触、重さといい、アレにすごく似てますね」と私が言うと、一緒に作業していた担当編集者のSさんも「ああ、誰が先に言うのかなと思ってましたよ、ふふふ」と笑う。すると、サラーム先生が大声でダイレクトに言う。「ウンコそっくりですよね!」

片手で握る

 ところどころ色がちがっていたり、繊維質だったり、一部未消化(みたい)だったりするディテイルまで、私が毎日拾っている犬のウンコに酷似している。

 なんと。チーキョフテは羊生肉がヘンなだけではなかった。世界で最もウンコに近い料理だった。小学生向けの料理教室で教えたら人気爆発間違いなしだ。

ブツがトレイに並ぶ

 ところが、このウンコ似のブツを皿の上にレタスやレモンと一緒に放射線状に盛りつけると、あら不思議。とたんに美しい料理に早変わりした。これほどまでに料理における盛りつけの重要性を感じたことはない。

きれいに盛りつければ、不思議とウンコ感がなくなる

 食べてみると、全く体験したことのない味だった。羊肉の味は全くしない。癖や臭みはゼロ。しいて言えば、味と食感はネギトロとコンビーフの中間みたいな感じ。でももっと美味しい。一つ言えるのは「爽やか」。生なのに、ウンコ似なのに。癖のないラム肉、ミント、パセリ、唐辛子、レモン……これらが奏でるハーモニーはクール。灼熱の地でなぜこんなものを食べるのか。答えは「涼」をとるためかもしれない。ビールやワインにもよく合う。逃がした魚を取り戻して大満足な私だった。

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