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安藤サクラがみずから書いた撮影秘話「是枝作品はなぜ子供たちが魅力的か」

カンヌ受賞作「万引き家族」主演女優がつづった

2018/06/09

 なぜ、子供たちが魅力的に映っているんだろう――。

 是枝裕和監督の作品を観るたびに、そう感じていました。そして今回、是枝監督の最新作『万引き家族』(6月8日公開)に出演して、ようやくその理由が腑に落ちました。是枝監督の現場では、カチンコが鳴る前と後で空気の粒子がまったく変わらないのです。

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 基本的に、映画の撮影では、「カチン」という音が鳴ると、一瞬で現場が真空パックされて空気の粒子が一変します。――私はその変化が結構好きだったりもするのですが――あの音で出演者たちは神経を研ぎ澄ませ、息を止めるように集中して演技をする。映画の撮影現場とは、そんな特殊で不思議な空間なのです。

 しかし、是枝組の現場にはそれがありませんでした。とても呼吸がしやすい現場だったのです。「なるほど、これが“是枝組”か」と思いました。子供は、大人以上に空気の粒子の変化に敏感です。だからこそ、変化が少なく自然な雰囲気の現場で撮られた子供は生き生きとして、魅力的だったのです。

 是枝監督は、まるで生き物と接するように作品を紡いでいきます。出演者たちとのやり取りを大事にし、長い時間を共有することで作られる関係性を大事につまんで、脚本もどんどん書き直していく。撮影現場で今日撮るシーンのセリフを渡されることもしばしばでした。是枝組の環境を一言で表すならば、「ものすごく“映画”な現場」。私の義理の父(柄本明)もこの作品に出演しているのですが、撮影から家に帰ってきて、「久々に映画の現場に行った感じがする」と喜んでいました。

 この作品は家族の映画です。

 リリー・フランキーさん演じる日雇い労働者の父親と、私が演じるクリーニング屋に勤める母親は、家族と一緒にボロボロの平屋で暮らしています。ある日、父親は虐待を受けている少女(佐々木みゆちゃん)を近所で見つけます。そして、家に連れ帰り、一緒に暮らすことに――。

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

 私は子供を昨年6月に産んでから初めて母親役を演じたのですが、実際に母になる前と後では、芝居とはいえ子供と触れ合う際に抱く感情は変わりました。親としての感覚が身体で分かるからです。

 また、母親になって仕事への向き合い方も変わったと思います。今まで以上にニュートラルな状態で撮影に臨めるようになりました。これまでは、映画の撮影があると私はそれだけに集中してしまいがちだったのですが、子供がいると、そうもいきません。家に帰れば子供がいて、否応なしに母親に戻るからです。

 ですが、今回の状態はとても良かった気がしています。是枝組に身をすべて預け、過剰に気負わずに、良い意味で「どうにでもなあれ」と思えたことで、新鮮な気持ちで芝居が出来ました。

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