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「レディー・ガガを乗りこなす」AI×ARの“幽体離脱”時代とは何か?

上田岳弘×暦本純一「AIとAR時代の文学」(後編)

今日、加速的な発展を見せているAI・AR技術で人間の環境は一体どうなるのか? 人間拡張研究の第一人者、東京大学大学院教授・暦本純一氏と、小説で先見的ビジョンを提示し続ける上田岳弘氏の対談、後編です。(『文學界』2018年7月号掲載記事より一部転載。前編より続く)

暦本純一さん(左)と上田岳弘さん ©石川啓次/文藝春秋

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科学技術と文学はリンクしている

上田 2010年頃から、文学の世界で流行しはじめたのが「移人称小説」です。すごく単純化して説明すると、「私」「僕」などの一人称の視点で描かれていた物語が、いつのまにか「あなた」「君」などの二人称の視点で、あるいは「彼」「彼女」といった三人称の視点で語られる小説です。たとえば「私」が知り得ない、自分の妻の視点で物事を描写したと思ったら、また「私」に戻ってくる。移人称の手法はいろいろあります。

『太陽・惑星』(上田岳弘 著)

暦本 『太陽』でも、物語が過去と未来を行き来したり、突然俯瞰的な視点で描かれたりしていましたね。すごく面白かったです。

上田 私はちょっとひねくれているので(笑)、『太陽』ではひとりの人物があらゆる人生を疑似体験できるしかけ、つまり移人称を個体の中で可能にする理屈を付けたんです。文学の世界で使われる移人称と、暦本先生らが取り組まれているテレプレゼンスの研究はよく似ていると思います。最先端の科学技術と、文学はリンクしているというのが私の持論です。

暦本 自己から他者へ人称を移す技術はVRやARの分野で、非常に重要視されています。

上田 文学的な手法の一つとして生まれた移人称的な視点が技術によって可能になり、いずれ一般にも普及するかもしれませんね。そうなると、たとえば今ここ日本で話している人が二秒後に、香港のとある会場の壇上にいる代理人に接続して、講演しはじめるといった光景を見ても、「ああ、これ、普通にあるよね」と誰も驚かなくなるんでしょう。

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