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トランプ大統領VS.金正恩委員長、なんとなく会って握手をするの巻

世界政治のバラエティーショー化がどんどん進んでいる話

2018/06/14
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あたかも強盗の棟梁が改心でもしたかのような錯覚

 もうね、国際政治がバラエティー番組みたいな状況になってるんじゃないかと思うぐらい、指導者が極彩色のようなどぎついキャラばっかりで、目がチカチカするんです。いま起きていることが面白すぎて、そもそもその前いろんなこと起きていたのすっかり忘れるじゃないですか。まるで『24』とかパニック映画観てるような。目の前が危機過ぎて、それまでいっぱい人死んでたの忘れちゃう的な。

 だって、つい去年ですよ、金正男さんがマレーシアで暗殺されたの。その遠因となった、金正恩さんの叔父である張成沢さんが、国家反逆だといって圧倒的な火力の対空砲で銃殺されたのが5年前。いままで何度北朝鮮がアメリカほかと合意した、その内容が反故にされてきたことか。もちろん、日本人の価値観や社会常識で北朝鮮の独裁者・金王朝の行動の是非善悪を判断するほどナンセンスなことはありません。でも、スイスで教育を受けてきた孤独な若き独裁者が為してきたことは日本のみならず国際社会からして理解しがたく、その理解しがたい北朝鮮がミサイルの発射実験をし、核実験を繰り返してきた、それが我が日本の隣国であり、日本人を多数拉致し、いまだ返還してこなかったわけですね。

©getty

 ところが、実際にいまの日本のメディアで起きていることは、小太りのチャーミングな北朝鮮の指導者というイメージで繰り返し報道しているようにも見えます。いや、彼は独裁者ですから。それも、かなりヤバいことをやってきた。彼の本来の性格やいま考えていることは分かりませんが、ギリギリまで緊張感を高めてからパッと開放外交路線に転換したことで、あたかも強盗の棟梁が改心でもしたかのような錯覚に陥って悪行の数々を容認してしまいかねない、実に見事なトリックにハマっているかのようです。

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なんとなく現状維持していったほうがいいんじゃないか

 んで、冒頭のトランプ大統領との固い握手、肩をたたき合っての友好ムード。でも、交わされた文書に具体的な解決への道筋に関する内容はほとんどなし。たぶん、アメリカの大統領と、北朝鮮の指導者が実際に会って対談をした、ということそのものが合意文書の中身以上の意味を持つとトランプさんは判断したんでしょう。どれもこれも、テレビサイズやネット放送のレベルで収まる、綺麗な絵を垂れ流すために特化した「騙すために作られた何か」に見えます。トランプ大統領も中間選挙があるし、北朝鮮を支援する中国も貿易戦争や南シナ海での軍拡を捌くにあたって北朝鮮問題は放置できないし、みんな事情があるんですよ。

 一連の北朝鮮関連で起きた問題を一個一個並べて真面目に検証するのも馬鹿馬鹿しいのかもしれませんが、みんな心の奥底で「この問題を解決するために努力するより、なんとなく現状維持していったほうがいいんじゃないか」って思ってるんじゃないですかね。だって、北朝鮮ですよ。共産圏の東ドイツだって、ベルリンの壁が壊れたから統一ドイツは統合に大変な苦労を乗り越えてきたわけです。ドイツ人は偉いねほんとに。でも韓国が朝鮮民族の統一が悲願だとして、先進国の一員である韓国人と同じレベルにまで北朝鮮人を教育し、人工衛星から見て夜真っ暗なぐらい電気すらないインフラを整備し、どうにかするための投資をどうするのかは、相当考えないといけないでしょう。非核化のための資金は韓国と日本が負担する、とトランプさんは言いました。ツケが日本に回ってくるのかと思いつつも、日朝で外交して拉致問題ほか前進がない限り日本はカネを出す必要もないわけです。事実上没交渉の北朝鮮と日本が話をできるように水向けをしているのがトランプさんだ、と言えば好意的過ぎるでしょうか。有難迷惑というか。