文春オンライン

米朝首脳会談、厳戒のセントーサ島に「週刊文春」記者が潜入!

新聞・テレビが報じない場外乱闘

note

北朝鮮側は盗聴などを警戒

 会場となったセントーサ島は、シンガポール南端のハーバー・フロントから約600メートルの距離にある。車やモノレールなどでアクセスできる他、遊歩道を歩いても渡れる全長2キロの小さい島だ。島内にはユニバーサルスタジオやカジノ、ゴルフ場など、多数のレジャー、アミューズメント施設がひしめき合っている。

「戦時中は英国軍の基地があり、日本軍捕虜の収容所でもあった場所です。会談当日はシンガポール海軍が海上を警備していました。会場のカペラホテルは周囲を森林に囲まれ、ゲートから建物までも500メートルほど離れています」(前出・現地の警察関係者)

 会談前、記者が徒歩でカペラに向かうと、車の往来こそ通常通りだが、周辺の至る所に新設の監視カメラが設置されていた。ゲート前まで来てホテルに向かおうとすると、警備担当者からこう怒鳴られた。

ADVERTISEMENT

「クローズ、クローズ!(閉鎖中だ!)」

カペラホテルの入り口 ©文藝春秋

 金正恩氏は当初、セントレジスではなく、シンガポールのシンボルであるマーライオンからも目と鼻の先の別のホテルに宿泊するとみられていた。

「盗聴などを警戒した北朝鮮側は『欧米系以外のホテル』を希望。当初はシンガポール資本のフラトンホテルに内定し、金正恩氏の執事役と言われる金昌善・国務委員も視察に訪れています。しかしトランプ氏の滞在ホテル周辺が『特別行事区域』に設定されたため、そこから近いセントレジスに変更したそうです」(現地記者)

 同ホテルは金ファミリーと因縁もあった。

「実はセントレジスホテルは昨年2月にマレーシアで暗殺された金正恩氏の異母兄・金正男氏のシンガポールでの定宿でもありました。正男氏は生前、セントレジスに滞在しながら、マリーナベイ・サンズ屋上のバーやKTV(カラオケバー)を頻繁に訪れていたのです」(前出・現地記者)

 今回正恩氏が宿泊した20階の「プレジデンシャル・スイート」は1泊約80万円。室内はキングサイズベッド、水晶のシャンデリアや大理石の床、金や銀の装飾で彩られている。

ロビーには筋骨隆々の白人男性が

 一方、トランプ大統領が宿泊したのはシャングリラ・ホテルだ。

 トランプ大統領の到着前、同ホテルを訪れると、ロビーには筋骨隆々の白人男性がポロシャツに短パン姿でたむろしていた。「米軍関係者やシークレットサービスが警備のために前乗りしていた」(米国人記者)という。

シャングリラ・ホテルの入り口 ©文藝春秋

 会談前日の11日は、トランプ、正恩両氏とも夜の予定が入っておらず、「サプライズの夕食会を開くのではないか」との観測も流れていた。だが正恩氏は一日中、ホテルにこもり切り、夜になっても現れる気配がない。

 だが、午後10時過ぎ、気温30度の蒸し暑さのなか、金正恩氏が動いた。専用リムジンを中心に車列を走らせ、妹の金与正氏とともに、市内観光に繰り出したのだ。

 車列がマーライオン付近を通過した後、正恩氏は植物園に降り立ち、シンガポールのバラクリシュナン外相らと記念撮影をしながら散策。その後、屋上プールで世界的に有名なマリーナベイ・サンズの「スカイパーク」を見学した。

メディアセンターで配られた団扇 ©文藝春秋

「正恩は前髪を少し下ろしたり、居合わせた観光客に手を振ったりするなどリラックスムードを演出していました。翌朝9時から開かれる首脳会談を前に、すでに会談の下地作りが友好的に済んでいることを印象付けようとしたのだと思われます」(前出の現地記者)

 記者も午後10時半ごろ、スカイパークから1階エントランスに降りて来た正恩一行に追いついた。百人以上の人だかりの中から「ウォーーッ!」と歓声が上がる。スマホを頭上に掲げる人が何重にも重なり、もはや正恩氏の後頭部しか見えない。正恩氏に何とか声掛けを試みたが、揉みくちゃにされただけだった。