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米朝首脳会談、厳戒のセントーサ島に「週刊文春」記者が潜入!

新聞・テレビが報じない場外乱闘

「その場を立つな! スマートフォンを仕舞え!!」

 6月10日午後3時40分、シンガポールのタングリン・ロード沿いの五つ星ホテルの1階ロビー。宿泊客がソファや入口付近のバースペースに佇む中、突然、現地警察の怒号が響いた。米朝会談の“場外乱闘戦”の幕開けだった。

テレビ局スタッフが警察官に見つかり……

 12日にシンガポールで開催されたトランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長の歴史的会談。

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 冒頭の場面はその2日前、金正恩氏が滞在先のセントレジスホテルに到着した際の出来事だ。複数の護衛や武装した警察に囲まれた正恩氏は落ち着いた様子で客室へと消えていった。

「何とか正恩の姿を捉えようと、複数のマスコミが1泊10万円もする同ホテルの部屋を押さえ、ロビーで待ち構えていました。しかし、スマートフォンで隠し撮りをしようとしたテレビ局スタッフが警察官に見つかり、首根っこを掴まれていました」(その場にいた記者)

 記者もホテル前で取材していたが、周辺は厳しい交通規制が敷かれ、世界中から集まったマスコミと、スマホを構えた地元住民らでごった返していた。

セントレジスホテルのロビー ©文藝春秋

車を囲むように走る黒スーツ姿の護衛たち

 金正恩氏がリムジンでホテルに入る直前、現地警察官とともに、金日成・正日バッジを胸につけた護衛が群集の前に出張り、正面からカメラを向けると睨み返された。

 リムジンがホテル前でスピードを緩めると、車を囲むように約10名の黒スーツ姿の護衛たちが足並みを揃えて走り出した。

「あれは米国のシークレットサービスの真似です。正恩氏が去った後のホテルロビー内では、北朝鮮から国内宣伝のために随行したカメラマンたちが、楽しそうに現地セキュリティスタッフと記念撮影をしていた」(前出・記者)

 ホテルの隣にあるショッピングモールのスーツ店主人は諦め顔で、「警察の規制でまったく人が通らず商売は上がったり。でも平和のためだからしょうがないよ」と語った。

ホテル前の北朝鮮の護衛 ©文藝春秋

 一時はトランプ大統領の意向で開催も危ぶまれた今回の会談だが、なぜシンガポールが選ばれたのか。

「まず米朝双方の中立国であることが最大の理由です。シンガポールは北朝鮮と人的交流があり、反北朝鮮のアレルギーが少ない。今でこそシンガポールは国連の経済制裁に加わっているが、北朝鮮の外貨稼ぎの重要拠点でもあります。また領土が小さいため、セキュリティを管理しやすく、米国大統領にとっても国際会議などでよく訪れる場所でもある。シンガポール政府は、『歴史上最大のプレスイベント』としてセキュリティなどに約16億円の開催費を投じ、積極的に受け入れました」(現地の警察関係者)

 シンガポール政府によると、世界中から約3000人の報道関係者が取材を申請したという。