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連載春日太一の木曜邦画劇場

役所広司がヤク中男に 異常な役の彼は最高だ!――春日太一の木曜邦画劇場

『シャブ極道』

2018/06/19
1996年作品(164分)/角川書店/3800円(税抜)/レンタルあり

 ここのところはテレビでのCMやドラマでほのぼのした印象が強くなっていた役所広司だが、新作主演映画『孤狼の血』を観て改めて思ったのは「この人は常軌を逸した役柄を演じる時が最も輝く」ということだ。出世作となった八三年の大河ドラマ『徳川家康』での織田信長役からしてそうだったが、目に狂気をほとばしらせながら周囲の目を気にすることなく常識外の行動に邁進していく――そういう役の時の役所は本当に怖い。

 今回取り上げる『シャブ極道』はそんな役所の魅力を全編にわたり堪能できる作品だ。

 役所が演じるのはタイトル通りの役柄。つまり、シャブに溺れきった極道である。

 一六〇分超という上映時間はこの手の映画にしては明らかに長く、演出のテンポも決してスムーズではない。だが、それらを補って余りあるほど役所の芝居が魅力的なため、冗長さを感じることなく作品世界に引き込まれていく。

 役所が演じるのは大阪の弱小組織・巌竜組に属するヤクザ・真壁。この男、いつもシャブでギンギンにキマっているだけに、言動のことごとくが尋常でなく、凄まじい。

 朝っぱらから裸の女をはべらせてスイカに白い粉を振りかけてむさぼる冒頭の登場シーンからしてブッ飛んでいるが、その後もハチャメチャをしまくる。賭場で見かけた美女に一目惚れすると、それが大組織幹部の愛人と分かっていながら誘拐、車で運んでいる途中にプロポーズ。死んだ子分の遺骨を食べる――だけならよくある描写だが、それを他の子分にも食べさせようとして、嫌な顔をしたら銃口を向ける。しゃぶしゃぶ鍋にシャブを混ぜる「シャブしゃぶしゃぶ」を披露し、「ごまダレよりポン酢に混ぜた方がいい」と子分にグルメ指南。挙げ句に自分の身体の中で麻薬を生成できるようになるのが夢とまで言い切る、筋金入りのジャンキーなのである。

 これを演じる役所がまた凄い。焦点の合わない目の飛び方、顔の青ざめ方、微妙に浮き出る汗、震え続ける首、子供のような笑顔と異常な殺気ある表情とのメリハリ――本当に重度のヤク中と思わせる芝居を終始見せている。そして、いつも足元がフラフラしているため、観ているとこちらまでクラクラと酔ってきて、真壁の「キマった目線」から見える世界を共有しているような錯覚に陥ってくる。

 特に、刑務所で禁断症状に苦しんでいる際の異常に開いた瞳孔、妻から妊娠を告げられた時のトローンとした目つき、いずれも「どうして演技でここまで表現できるんだ」と思いたくなる見事さだった。

 役所広司は尋常でない時こそ、やっぱり最高だ。