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「紅いシリコンバレー」深センで目撃したロボット産業の恐るべき進化

日本のお家芸で中国企業の後塵を拝する日も近い

2018/06/16

労働集約型企業には不向きな土地に

 地価の高騰も著しい。深センのマンションの価格は1平方メートル当たり8万元(約136万円)もするケースもあり、日本円で1億円近くを費やさないとマンションが買えない状況になっている。労働集約型企業には不向きな土地になりつつあるのだ。

電子部品販売業者などが多く集まり、「深センの秋葉原」とも言われる華強北地区 撮影:筆者

 中国のロボット需要に関しては、日本企業も恩恵を受けている。2017年の日本製産業用ロボットの輸出額は前年比36.2%増の5284億円となり、過去最高を更新した。中でも中国向け輸出(57.9%増の2275億円)がけん引した。

 中国は日本など海外からロボットを輸入して、カスタマイズしながら学ぶと同時に、豊富な資金力をバックにM&Aとベンチャー育成で自国ロボット産業を育成している。

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 たとえば東莞で2013年に起業した「中天自動化科技」は、日本で不良在庫処分市のロボットや工作機械を購入してそれを改良し、スマホ向け部品の研磨などをしている。いずれ自社でのロボット開発を目指している。社長の唐康守氏は、EMS企業で作業員として働きながら裸一貫で起業したという。

 輸入に頼るだけではない。2016年には中国の美的集団が、スイスのABB、安川電機、ファナックと並ぶ世界4大ロボットメーカーの一角、ドイツの名門KUKAを買収した。この美的集団は安川電機とも提携しており、日独の両方から技術習得を狙っていると見られる。したたかだ。

 同じく東莞の「松山湖国際機器人産業基地」。機器人とは中国語でロボット。ここはドローンで有名なDJIと実力アジアNo.1と言われる香港科技大が投資して設立した。ここでは、工場の自動搬送システム(AGV)を応用した、空港やホテルなどで空いている駐車場に自動的にクルマを移動させる「スマートパーキングロボット」などを開発するベンチャーも生まれている。

東莞のAGVベンチャーで働く若者たち。若い社員や経営者は「中国ではロボットが成長産業になるので起業した」と語る 撮影:筆者

「このままでは中国メーカーに負けてしまう」

 ロボットでは世界トップの実力を持つ日本企業も中国の存在を侮れなくなっている。ここで少しロボットの仕組みについて簡単に説明する。ロボットは穴を空けたり、曲げたり、削ったりする作業が苦手で、モノを運ぶことを得意とする。その理由はロボットの「腕」は、反動の加工反力に弱いからだ。このため、ロボットがモノを運び、工作機械が作業をする分業だった。

 ところが、中国ではその「分業」という考え方に変化がみられる。

 工作機械業界に40年近く関わり、中国向けに日本製ロボットや工作機械をカスタマイズする広州太威機械を創業、中国の工場の運営に詳しい安江恒憲氏も指摘する。

「日本ではロボットの能力は、どれくらいの重さのものを運ぶことができるかを示す可搬重量で評価されるが、中国では処理スピードが重視される。しかし日本企業はこうした顧客のニーズを把握できていない。中国に開発部門を持たない日本のロボットメーカーは、中国の生産現場の変化の事情に疎くなり始めている。このままでは将来、中国のメーカーに負けてしまう」