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「紅いシリコンバレー」深センで目撃したロボット産業の恐るべき進化

日本のお家芸で中国企業の後塵を拝する日も近い

2018/06/16
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作業が止まらないように「正味稼働」を高める

 中国の新しい概念のロボット造りを象徴する企業が東莞に本社を置く「広東天機機器人」だ。2017年7月に設立されたスマホ製造用ロボットの会社で、安川電機も35%出資した。

 この中国企業が造るロボットを見ると、日本ではあまり見ない工作機械と一体化したようなもので、スマホのカバーなど軽いものをいかに素早く曲げて研磨するかに力点が置かれて開発されている。ロボットも工作機械も作業が止まっている時間がないように、「正味稼働」を高める設計がされている。こうした設計思想自体が、製造現場が海外に流出している日本では失われつつある。

 日本の産業界には「スマホ用ロボットに弱い安川が、中国の製造現場のニーズを吸収しようと焦って出資したのではないか」との見方もあるほどだ。

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スマートフォン製造に使われるロボット 撮影:筆者

 こうした事情から中国では日本製を輸入して、現地に合った処理能力の高い機械にカスタマイズすることが求められるのだ。この分野が大きなビジネスになっているにもかかわらず、高品質・高性能との評価に胡坐をかいて、日本企業は現地のニーズに耳を傾けずに、そのまま自社製品を押し出すだけにとどまる傾向にある。

 この背景には、日本から大量生産の現場が消えつつあるうえ、日本のロボットメーカーは中国に本格的な開発拠点がないため、最新のニーズが伝わりにくくなっているという課題もある。

「これが本当の『空洞化』ではないか」

 東莞でスマホ部品などの生産設備を造る工場を2016年に開設したJ-LASA社長の首藤優時氏は、長年日本の大手電子部品メーカーでも生産技術を担当してきた。その首藤氏はこう語る。

「日本製のロボットや工作機械が中国の現場ではそのまま使えないだけでなく、日本の本社の生産技術部が設計した製造ラインの発想自体が古くて中国では使えない。日本から製造現場がなくなっているので、現場を見たことのない技術者が机上の空論でライン設計するからです。これが本当の『空洞化』ではないか」

EVバスが集まる車両基地 撮影:筆者

 また、深センや東莞のメーカーは、新製品の開発にあたっては、設計図を作成する段階で社内調整などはなく、売れると思った製品をいきなり試作して、その試作品から設計図を完成させていく傾向が強まっている。製品開発のスピードを速めるためだ。その試作品を素早く造るための生産設備も求められている。

 中国のロボット産業の成長に象徴されるように、中国企業は意思決定が速い。そして、「徹底したデータ主義と負けを率直に認める現実主義によって、技術力を身に付けるのが速い」(首藤氏)。

 今でも日本には、中国のメーカーは「安かろう悪かろう」の製品を造っていると思っている人は多い。これはとんでもない時代錯誤的な認識だ。このままでは、日本のお家芸のひとつ、ロボット産業も中国企業の後塵を拝する日も近いだろう。

◇ ◇ ◇

 現地取材をもとに井上氏が執筆したルポ「中国の未来都市『深圳』がすごい」は、現在発売中の「文藝春秋」7月号に掲載されている。

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