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家の空気が「健康」をつくる

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いつまでも若々しく、元気に生きていくために、「住まいの温度」が影響している。家の温度とそれを保つ断熱・気密、そして健康にはどんな関連性があるのか、慶應義塾大学の伊香賀俊治教授に聞いた。


夜間の熱中症事故は断熱・遮熱・冷房で防ぐ

慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 伊香賀 俊治 教授
慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 伊香賀 俊治 教授

 健康志向が強まる昨今、食事や運動は誰もが意識している。しかし「住まい」が健康に大きく影響していることは、案外知られていない。例えば夏の熱中症や不眠、冬の高血圧やヒートショックは、家の断熱性能を高めることで、改善が見込まれる可能性がある。

 そもそも日本では、夏をしのぎやすくすることに重きが置かれてきた。一方、室温を安定させる断熱・気密はさほど重要視されてこなかった。

「総務省の調査によると、日本の断熱住宅(※)の普及率は25%程度にとどまっています。地域格差も大きく、寒い地域は断熱住宅が普及している一方で、温暖な地域では20%に満たないエリアもあります」。伊香賀教授はこう指摘する。

 これは断熱を寒さの対策ととらえているからだろう。しかし現代の日本では、夏を快適に過ごすうえでも、住まいの断熱・気密をするほうが効率的だ。

「例えば、断熱がされていない鉄筋コンクリート造の集合住宅では、夜になっても室温は30度台から下がらず、蒸し暑くなりやすいのです。これは、コンクリートに熱をためる性質があるからです。断熱や遮熱がされていないから、昼間の強い日射を受けて屋根や壁にじわじわと熱がたまり、夜になっても室温が下がりません。日差しがきつい最上階は、オーブンの中にいるような状態。エアコンをかけても壁や天井から熱が伝わるから、設定温度どおりの涼しさは感じられないのです」

 家そのものが熱を帯びているから、冷房代は余計にかかる。こうした住宅事情は、特に高齢者の熱中症を引き起こす要因になっている。

「高齢者は体内の水分量が少ないのに、夜に起きたくないからと水をあまり飲まず、また空調をもったいないといって我慢して眠る方が多くいます。発汗で脱水状態になり、熱中症のリスクが高まります」

 適度な空調で健康を害さないレベルまで温度をコントロールすることは、健康管理の第一歩。気兼ねなく、しかも経済的にエアコンを使うためにも、住まいの断熱・気密が必要というわけだ。

 例えば、よしずやすだれなどで窓から日射が入るのを防ぎ、また壁・天井だけでなく屋根も断熱をしておく。そもそも室温が上がりすぎないし、空調も弱運転ですむ。

眠りを遮るトイレも「室温18度以上」で改善

 心地よい温度の家づくりは、質の良い眠りにも貢献する。中年期を過ぎると多くの人が悩んでいる夜間頻尿(就寝中に1度以上トイレに起きる状態)の改善にも、住まいの温熱環境がかかわっている可能性があるという。伊香賀教授の調査では、就寝前の居間の室温を「18度以上」「12度以上~18度未満」「12度未満」に設定したところ、18度以上の家に対して、12度未満の家では、夜間頻尿である確率が3倍高かった。

出所:国土交通省報道資料(2018年1月25日)「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告(第2回)」より作成
出所:国土交通省報道資料(2018年1月25日)「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告(第2回)」より作成

「現在、40歳以上の約69%に夜間頻尿が起きていると推計されます。室内の寒暖差のある家で冬場のトイレに向かうのは体への負担が大きく、ヒートショックを引き起こしかねません。また、夜の移動は転倒の危険が高い。介護予防が重視される中で、寝室温度も含めた夜間頻尿の対策が求められていくでしょう」

 このほかの調査でも、断熱レベルが低く寒い家ほど、さまざまな病気のリスクが高まることが明らかになっている。なかでも高血圧と無断熱・低温の家のかかわりは鮮明だ。

「高知県檮原町で10年間にわたって実施した追跡調査では、室温18度以上の家と、18度未満の家に暮らした場合の健康への影響をみてきました。特に高齢の方ほど、温度の影響を受けやすい傾向にあり、10年後の高血圧の発病確率は暖かな家よりも寒い家のほうが6.7倍も高いという結果が出ています」

 たかが血圧と侮るなかれ。高血圧は、心筋梗塞や脳梗塞など重篤な病気の要因の一つとなる。英国では、室温を18度以上に保つことを国として推奨している。家中が適温に調えられていると、元気で暮らせる健康寿命が長い傾向にあるという興味深い指摘もある。

 住まいの温熱環境を整えるのは、目には見えない投資ゆえに高コストと考えられがち。しかし断熱・気密・空調を気にかけておくことが、家族の健康を守る手立てになる。手をかけておいて損はない。

※「平成25年住宅・土地統計調査」の二重サッシ又は複層ガラスの窓ありの住宅