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“1年生は雑務をやらない”京大アメフト部という「体育会組織」の合理性

日大アメフト部「悪質タックル」騒動で考えた

2018/06/16

「強い組織」とは一体、何なのだろうか?

 連日報道された日本大学アメリカンフットボール部による一連の「悪質タックル」騒動を見て、ふとそんなことを考えた。

©iStock.com

 思うに、ステレオタイプな「体育会系」という言葉が示すような、上意下達の組織構築が健全に行われるには、トップに強固なカリスマが必要だ。選手が道を誤った時にはしっかりと軌道修正をし、指針を示せる。そんな存在が必須なのである。かつて黄金時代を築いた1980年代以前の日大アメフト部には、故・篠竹幹夫元監督という存在がいたからこそ、その強さと健全な組織力が維持できたのだろう。

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 一方で、そういった強烈なカリスマは常に集団に存在するわけではない。では、そんな先導者のいない組織が強くなるために必要なのは、どんな要素なのだろう。

勝つための徹底した“合理主義”

 ひとつの興味深いチームがある。

 京都大学アメリカンフットボール部。

 ご存知のように、京大と言えば東京大学と並んで日本を代表する難関国立大学の最高峰だ。もちろん強豪の私学のようなスポーツ推薦の選手はいない。それでも1980年代~90年代の京大は、大学王者6回、日本一4回など輝かしい成果を残してきた。

 決して恵まれているわけではない環境の中、彼らが結果を残し続けることが出来た理由は、徹底した“合理主義”だった。

「勝つために必要なことだけを合理的に、具体的に実行していましたね。とにかく『勝利』という結果に向かって大切なことだけをひたすら考えていましたから」

 そう語るのは、28年前に日大との学生王者決定戦・甲子園ボウルで京大チームのクオーターバック(QB)を務めた佐野徹だ。

1990年に行われた京大ギャングスター×日大フェニックスの甲子園ボウル ©文藝春秋

練習が終わると4年生の先輩たちがボールを磨いている

 奇しくもこの年は、日大が2017年に優勝するまでは最後に学生日本一に輝いた年でもあった。

「当時の日大は篠竹監督譲りの愚直なプレーと、驚異的な練習量に裏付けられた能力の高い選手を揃えていて、本当にすごいチームだった。だからこそ僕たちのような経験者のいない国立大が勝つには、無駄をとにかくなくすことが必要だったんです」

 分かりやすい例が、チームの雑用だ。

 京大アメフト部では、当時から1年生は雑務をやらない。代わりにその役目を請け負うのは最上級生の4年生だ。佐野が回想する。

「最初はやっぱり不思議な感じがしましたよ。練習が終わって4年生の先輩たちがボールを磨いたり、グランドを整備したりしている中で1年生の僕らは『帰って良いよ』と言われる。それは当時の体育会系のイメージとは、正反対でしたから」