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レスリング栄和人氏の謝罪会見は、なぜ反省が感じられなかったのか

臨床心理士が分析する

2018/06/18
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口先を突き出すように尖らせる栄氏の仕草

 パワハラについて質問される度に、栄氏は口先を突き出すように尖らせた。この仕草が、この問題に対する栄氏の感情をもっともストレートに示している。無意識の仕草は正直だ。気に入らないことを言われたり、面白くない時や不安がある時、人は口先を尖らすという仕草を見せやすい。この仕草だけでも、パワハラ認定されたことに対して不満があるのだろうと思わせるに十分だ。

口を尖らせる仕草がよく見られた ©時事通信社

 伊調選手に直接、謝罪したのかと聞かれた時も、栄氏は口先を尖らした。まだ謝罪できていないことへの不満というより、伊調選手に謝罪すること自体に不満があるのではと思わせる仕草だ。ここで口を尖らしたことで、自分が悪かったという意識が薄いのではという印象が強くなる。

 実際、伊調選手への直接の謝罪はまだであり、「どこかでタイミングが合えばという話は聞いていたが」と、栄氏はうつむき加減で目を細め成り行き任せ的な返事をした。発言と仕草が相まって、どうしても謝罪しなければという思いも真剣さもそこから感じ取れない。当事者に謝っていない、当事者が許していないだけでなく、田南部コーチには連絡すらないというのだ。発言の矛盾を、仕草や表情がさらに際立たせていた。

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成功すれば自分の手柄、失敗すれば他人のせい

 パワハラの原因を「コミュニケーション不足」「行き違い」と説明した点も矛盾した。パワハラする側は、上からの一方的なコミュニケーションパターンを使い、もとより相手の話を聞こうという気などないものだ。それなのにコミュニケーション不足というのは、ハラスメントをした側に都合のよい言い訳でしかない。原因は自分だけでなく、相手にも非があるのだと言外にほのめかしていることになる。

伊調選手へのパワハラは「コミュニケーション不足が原因」とした ©文藝春秋

 このように自分の都合がよいように判断を歪める傾向を、「自己奉仕的バイアス」と呼ぶ。成功すれば自分の手柄、失敗すれば他人のせいという訳だ。自分のせいで起きた出来事でも、そうなった原因を自分以外のところに求め、自分の非を認めないのが自己奉仕的バイアスだ。誰にでもあるバイアスだが、このバイアスが強くなると、自分の誤りを認めて反省し、そこから学ぼうという姿勢が薄れてしまう。