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坂下 秀之
2016/05/22

オバマ広島訪問 謝罪なしで合致
日米政権の思惑

source : 週刊文春 2016年5月26日号

genre : ニュース, 国際, 政治

広島訪問を伝える各紙
Photo:Kyodo

 オバマ米大統領が5月27日、現職米大統領として初めて被爆地・広島を訪れることが明らかになった。かねてから被爆地訪問に意欲を示してきたオバマ氏だが、保守派や退役軍人団体の間では「おわびの言葉を述べなくても訪問自体が謝罪と解釈される」との批判は根強かった。こうした批判を承知の上で、オバマ氏に決断させたのはベン・ローズ大統領副補佐官だ。

 ローズ氏は政権入り前まで外交実績のほとんどない若手スピーチライターだったが、大統領の信頼は厚くオバマ外交は「ローズ氏で始まり、オバマ氏で終わる」とまで言われている。従来の外交のプロたちに対しては「時代遅れの発想しかできない」と批判しており、イランとの核合意、キューバとの国交回復などオバマ氏の歴史的な決定はすべて彼が手がけたものだ。

 ホワイトハウス関係者によると、ローズ氏は今年に入ってから広島訪問について本格的な検討に入り、2月には根回しを開始したという。

 米メディアでは公式発表前に、ワシントン・ポストなどが広島訪問を求める社説を掲載したが、これもリークで世論形成を図るローズ氏の影響があるとみられる。

 一方、日本側も今回は外務省が実現に向け、強力な働きかけを行った。特に斎木昭隆事務次官は実現に熱心で「日米関係にとって画期的なイベントになる」と歓迎のシグナルを米側に盛んに送った。

 もっとも、外務省はもともとは広島訪問に乗り気ではなかった。09年にやはり広島訪問が検討された当時は、藪中三十二事務次官が「反核団体を勢いづかせる。時期尚早だ」と米側に進言している。

 今回は「安保環境が激変した」(外務省幹部)というが、背景には当然、安倍晋三首相の意向がある。日本でオバマ氏の人気は依然絶大。サミット閉幕後、そろって広島で核兵器廃絶へ向けた決意を訴えれば「参院選を控えて支持率アップに繋がるのは確実」(自民党中堅議員)との皮算用も透けて見える。そのためにハードルは下げられるだけ下げており、ライス大統領補佐官も「日本側は謝罪は一切要求してこなかった」と明かす。世界的に核の脅威が高まる中、広島訪問を日米政権のパフォーマンスで終わらせてはなるまい。