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東日本大震災翌日に生放送「あの時『タマフル』があってよかった」

『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』鼎談 #3(前編)

2018/06/30
note

震災翌日の放送「え? やるの? ウソでしょ?」

宇多丸 あえて言えば、やっぱり震災の翌日にやった放送は、つらいというんじゃないけど、「えー、うそー」って思った。

古川 あの日ね。

 

しまお でも私、震災の時は『タマフル』があってよかった。私、フリーで、毎週毎日通うところがなかったから。息抜きできる場所がなかった。仕事も止まったりとかしてたし。だからラジオがあってよかったなって思いましたね。

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宇多丸 確かにそうね。それはそうだ。

古川 僕も、あの日あの夜に仕事があって、しかもそれが人にとってなにかの役に立ったっぽい、というのがあるだけで、どんなに恵まれてるかと思ったな。あれは僕らも同時に救われてましたね。

しまお ネットもさ、うかつになんか言ったらそれで火がつくっていうこともある時だったから。

宇多丸 今思えば、やっぱりみんなちょっと精神状態が普通じゃなかったね。ピリピリしてましたし。

しまお 私、一瞬だけ関西行ったんじゃないかな。2泊ぐらいした。もうおそろしかったもん。怖くて。

宇多丸 当日の夕方、TBSで打ち合わせしながら曲をみんなで選んでたら、原発からドーン! て煙が噴き上がる映像が流れてきて。「もうこれ、(放送は)ないでしょ! ないないない!」って思った。「もういいっしょ!」みたいな感じに思ってたから、「え? やるの? ウソでしょ?」って。

しまお でも、あの時はほんとに『タマフル』があってよかった。

宇多丸 皆さんからそういうふうに言ってもらって、今思うとやってよかったなっていうのはありますよね。

 

古川 あの放送終わった直後かな。高橋芳朗さん*からすぐメールが来て、「誇りに思う」って一言書いてあったの。それはすごい覚えてる。放送をやって、特に知り合いがそう思ってくれたのが嬉しかったし、思い返せば確かに人の仕事を見て嬉しくなることあるよなって思って。それこそこの間のNHK-FMでやった『ラップ三昧』**とか、ああいうのも、オレは直接関係ないけど、自分の身近な人があんなすごいことをやってさ。そうか、こういう時「誇りに思う」って言えばいいのか、って思うようになった。(*宇多丸や古川耕と20年来の友人である音楽ジャーナリスト。番組にも多数出演)(**2018年1月8日にNHK FMで放送された『今日は一日“RAP”三昧』のこと。10時間の生放送でHIPHOP/RAPの歴史を振り返った。出演は宇多丸、高橋芳朗、DJ YANATAKE、渡辺志保ら)

宇多丸 なるほど。かっこいいこと言うね。

番組まるごと車の中から全面生中継スペシャル

古川 ほかに記憶に残ってる印象深い回ってありますか? 渋滞に突っ込んだやつとか*。(*2013年5月4日に放送された「ゴールデンウィーク緊急特別企画! ~渋滞対策情報・リアル~ 番組まるごと車の中から全面生中継スペシャル!」のこと。渋滞が予想される高速道路のパーキングエリアから放送を始め、放送中に高速道路に入ったが、大して渋滞しておらず拍子抜けとなった回)

しまお ああ、渋滞のやつは面白かったね。インタビューでいうと、外国の人のがなんかよかった。

古川 例えばヤン・イクチュン*のインタビューとか。あれはオレもすごい好きだったな。(*韓国出身の映画監督・俳優。2011年2月12日、監督・主演作の『息もできない』について宇多丸がインタビューを行なった)

宇多丸 ああ、そう。彼の人柄もありますけどね。ああ、そうですか。

しまお よかったですよ。

宇多丸 インタビューはいつもほめてくれますよね。

しまお 宇多丸さんのインタビューをもっと聞いてみたいな。あの後もっとやるかなと思ったら、そうでもなかったし。

宇多丸 いや、結構やってますよ。映画監督のインタビュー。井筒監督とか三池監督、あと大林監督もやってるし。ただ基本的には私、そういう重責系はめんどくさくて。あんまりやりたくない。

しまお あとは布団で寝ながらやった回とか。

古川 「宇多丸甘やかし放送」。布団を用意して横になって喋って、甘やかしどころか全然体勢がつらいっていう。進行は小島慶子さんが全部やってくれた。

宇多丸 風呂も入ったしなー。

古川 あと、宇多丸出席裁判。

 

宇多丸 「出席裁判」。

古川 普通の裁判じゃねーか! っていう。

宇多丸 オレはその場にいるのに発言権がないっていう。あれはひどかったな。

古川 宇多丸さんが喉のポリープの手術して、その翌々週にね。宇多丸さんは声を出せないからその場にいて、筆談したり、事前に録音した声だけ流してたんだ。

宇多丸 その前の週は手術直後で休んだんだ。笑い声も出しちゃいけないっていうからさ。おれは聞いたら絶対声出して笑っちゃうから、聞きもしなかったっていう。

古川 スタッフだけで放送したんですよ。映画評もスタッフがやる。たしか『レイトン教授』の映画(『レイトン教授と永遠の歌姫』)の話をした。橋Pが映画評でボケてるんだけど、それがイマイチ伝わらず。

宇多丸 『レイトン教授』の映画じゃなくてニンテンドーDSのゲームの話をしてる、みたいなやつでしょう。

古川 そうそう。「スクリーンがふたつあって斬新だ」みたいな話をしてて。で、うまく伝わらない。

しまお 私は小西克哉さんと一緒にやったんだよな。

古川 やりましたねえ。

宇多丸 まあ、それもありましたね。その節はありがとうございました。

しまお いえいえ。