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巨人・亀井善行はなぜ、ファンにも首脳陣にも愛されるのか

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/04
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 中大野球部出身の知人がいる。プロを夢見ていた彼は、先輩の阿部慎之助と後輩の亀井義行(当時)の打撃を見て、上のレベルで野球を続けることをあきらめたという。

 14年目を迎えた亀井善行が充実のシーズンを送っている。今季は昨年の本塁打王ゲレーロの加入で出場機会の減少が予想されていたが、ふたを開けてみれば、ペナントレースの約半分を終えた時点で、打率2割9分5厘、6本塁打と奮闘。2009年以来自身2度目となる規定打席到達も現実味を帯びてきた。

 亀井はその知名度の割りに実績の少ない選手だ。25本塁打をマークした09年をのぞけば、規定打席はおろか2桁本塁打すら一度もなし。度重なるケガに見舞われ、運気を変えようと登録名を義行から善行に変えたものの、変更を発表した直後のキャンプで左ふくらはぎの肉離れに見舞われる、という気の毒すぎる出来事もあった。

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 ただ、亀井はもともと「プロ」から高い評価を受け続けている選手である。09年のWBCではほとんど実績がない状態でありながらサプライズ選出されて物議を醸したし、亀井の才能を見出した原監督には「もう一人亀井がいないかなと思ってます」とまで言わしめた。第二次原政権でヘッドコーチを務めた川相昌弘氏は「本来なら阿部、亀井、坂本のような選手が打線で圧倒して勝てた方がファンも面白い」と、当時枢軸と呼ばれていた村田や長野より先に亀井の名前を出して理想の野球を語った。

 さらに、貴重な生え抜きのベテラン選手ということを差し引いても、球場での人気はトップクラスと言っていい。実績はさほどではなくてもファンに熱く愛される人気選手であり、玄人好みで首脳陣からの信頼も常に厚いという不思議なプレーヤー、亀井。彼はなぜかくも愛されるのか。

2009年以来自身2度目となる規定打席到達が現実味を帯びてきた亀井善行 ©文藝春秋

なぜファンや首脳陣に愛されるのか

 試合を見ていてヒントを見つけた。6月24日のヤクルト戦(東京ドーム)。0ー0で迎えた4回2死二塁のピンチ。川端の左前打をすかさず処理したレフト亀井は好返球で二塁走者の山田哲人を刺した。さらに、3点を追う9回、右前打で出塁すると1死後に代打阿部の右中間二塁打で一気にホームに生還した。走攻守三拍子揃っている、と言ってしまえば簡単だが、用兵をする指揮官からしたらこれほどありがたい選手もいない。

 例えば、阿部を終盤に代打に出すとする。阿部が首尾よくヒットを打ったら代走、さらには次の回を守る野手と最大で一気に3人が必要になる。8番キャッチャー小林に代打阿部、代走に吉川大、さらに次の回から捕手に大城という具合だ。それが亀井なら代走はいらず(最近は代走がでることもあるが……)、外野守備に関してはむしろ守備固めになる。スタメンでも途中起用でも極めて使いやすい選手なのだ。

 ドラゴンズのレジェンド、立浪和義氏が自分のところに話を聞きに来た若手選手にいつも言っていたことがある。

「1年でも長く野球をやりたかったら、最後まで試合に出られる選手になれ」

 野球は「機会」のスポーツだ。試合の途中でベンチに下がるということは、限られた打席数、投球回を他の選手に譲るということ。つまりチャンスをみすみすライバルに与えてしまうことになる。ミート力、パワー、肩力、守備力、走力……。代打や代走、守備固めを出されない「代えにくい」選手になるためにはいわゆる「5ツール」を兼ね備えるのが近道。これらの能力をハイレベルで併せ持つ亀井が重宝され続けるのもうなずける(惜しむらくはもう少し体が強ければ……)。

 さらに、亀井の大きな武器が勝負強さだ。ここまで12球団トップの得点圏打率4割4分4厘。得点圏打率は再現性が低い指標だと言われているが、亀井は昨年も3割8分2厘をマークしており、チャンスでの集中力は特筆すべきものだ。また、亀井が記録しているサヨナラ本塁打6本という記録は王貞治(8本)、長嶋茂雄、阿部慎之助(7本)に次ぐ球団歴代4位タイ。ON、阿部は巨人選手の通算本塁打数でも上位3人であり、通算76本塁打の亀井の突出度が光る。「サヨナラ本塁打率」は実に7.9%(868本塁打の王は0.9%)。満塁男の異名をとった駒田徳広氏は通算195本塁打のうち13本が満塁弾で、「満塁本塁打率」は6.7%だから亀井もまた「サヨナラ男」として球史に名を残してもいいはずだ。

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