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日本ハム・上沢直之、苦しんだ末にたどりついた目標は「笑顔」

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/17
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苦しいときに気付いた「楽しむこと、笑うこと」

 この話を聞いた時の彼も感情は隠しませんでした。すっと声のトーンは低くなり真顔で時には途切れがちに話すのを見ていたら、本当につらい日々だったんだろうと想像の範疇を超えてしまって、聞いている私が次の言葉を失いました。そしてそんな彼が落ちるところまで落ちて気づいたことはとてもシンプルなことだったそうです。

「楽しむこと、笑うこと」

 嫌々やっているものに結果は伴わない、努力のその先には笑える場所がある。何より野球を楽しめなくなっているのが一番良くなかったんじゃないか。朝起きて、「よし! 今日も頑張ろう」と思うことだけで何かが変わっていく。この意識の変化が試合中の表情やガッツポーズに自然と表れてチームメイトに伝わることもたくさんあったんだと思います。シーズン前に今年の自分を漢字一文字にしてくださいとお願いした時も、迷わずに「笑」と書いてくれました。

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「楽しむこと、笑うこと」の大切さに気付いた上沢 ©文藝春秋

緊張でがっちがちのオールスター登板

 その上沢投手がオールスターに出場しました。プロ野球選手でも限られた人しか上がれない夢の舞台・オールスターゲーム。上沢投手は高卒7年目で監督推薦で初出場です。私はこの日はオフで自宅でラジオとテレビの二刀流。上沢投手がコールされた瞬間は泣いてしまうかもなと自分を想像していました。あんなに苦労した選手がこんなにキラキラしたところに登場するんです。普段から涙もろい私が泣かないわけ……さぁ、その時は来ました、ラジオからのコールを聞き、すぐさまテレビ画面を見た瞬間に……私の顔は止まりました。

 当の上沢投手が緊張で、がっちがちなのです。もう心配で心配でこちらは泣いてる暇などないのです。上沢投手は4番手として6回7回の2回を26球でみごと0点に封じました。投げるごとに左腕で顔の汗を抑え、ベンチに戻ってくる時もいつもの笑顔はなく、投げ終わりでチームから発表されたコメントも案の定、「緊張しました。今シーズン一番緊張したマウンドでした」のフレーズから始まっていました。お祭りムードの中でとてもとても印象に残る登場シーンでした。

 早くいつものマウンドに戻ってきていつも通りの姿をみせてほしい。厳しい後半戦が待っています。上沢投手は、自身が入団してからチームは2度優勝していますが、ビールかけも優勝旅行もどちらも経験していません。言ってみれば彼はまだ優勝していません。自分が戦力の輪の中にいて優勝に突き進む上沢投手にとって初めてのシーズンなのです。オールスターでは泣くことはなかったけど、この先の優勝した瞬間に上沢投手がどんな笑顔なのかを想像すると、いとも簡単に私は泣けてくるのです。

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