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リクエスト制度元年、良かったこととちょっと不安なこと

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/31

 長いこと野球に携わっている関係者は「ストライク、ボール及びアウト、セーフの判定は覆らない」という概念が身に染みている。ところが、今年度から導入された「リクエスト制度」により野球観が変わってきた。これはMLBが先に導入した「チャレンジ制度」を参考にしたもので、当初賛否両論あったものの予想に反してすんなり取り入れられている感じを受ける。

リクエスト制度導入により起きた変化

 際どいプレーの判定に関して、監督から審判に対し手や指で四角いポーズを示すことにより、VTRによる検証を求めるもの。審判団は速やかに場内放送でその旨を伝え、ビデオ室に向かい検証を行う。要する時間は判定の難度にもよるが、概ね3分程度だ。この間、場内ビジョンでそのリプレーが映し出されるので、両軍ファンのリアクションが興味深い。自分が応援するチームが有利とみるや歓声が沸く。一方、不利とみるとダンマリ。これが球場の新しい風物詩になりつつある。ただ、リプレーを何度も見返しても難しい判定はある。その場合、最初の審判のジャッジ通りになるのはいうまでもない。

検証中、リプレーが流れるビジョン ©中川充四郎

 相撲の「物言い」は、話し合いのあと場内説明がある。「只今の協議について説明します。行司軍配は○○にあがりましたが、○○の足が土俵の外に出るのが早いのではないか、との物言いがつきましたが協議の結果、○○の足は残っており、行司軍配通り○○の勝ちとします」というような。しかし、野球は検証を終え、グランドに戻った審判が検証の元となったベース付近を指さしてアウト、セーフのゼスチュアで完了。「只今の判定について説明します。1塁塁審の判定はアウトでしたが、○○監督からリクエストがあり検証しました結果、1塁手の完全捕球より走者の足が先にベースに到達しており、1塁塁審のジャッジミスによりセーフとします」なんていう説明を聞くことはない。

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 ただ、リクエストを要求する監督のタイミングも難しいところがある。攻撃の場合、守備の場合によって投手のリズムにも関わってくるからだ。その辺りも考慮しなければいけないので、微妙なプレーでもあえてリクエストせず続行させるケースも見受けられる。それと併殺プレーでの「職人技」を見せる醍醐味がなくなったのは残念な面でもある。2塁にベースカバーに入った遊撃手や2塁手が俊敏な動きで華麗な送球を見せ、併殺を完成させるもの。従来は捕球と触塁が微妙なところでもタイミングでアウトにしていたが、今季からは厳密になっているので流れるプレーがぎこちなくなっているケースもある。

キャンプで審判と新ルールの確認をする土肥投手コーチ ©中川充四郎
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