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甲子園春夏連覇の島袋洋奨はいま――「背番号143」からの再出発

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/31

「背番号143」から再出発した琉球のトルネード

 沖縄・興南高校時代、エースとして甲子園春夏連覇を果たした左腕である。

 その後中央大学に進学したが、上級生の頃に極度の制球難で大不振に陥った。それでもホークスがドラフト5位で指名。涙を流して喜んだ。

 ただ、プロ入り後も同じ苦しみと戦った。1年目の4月、専門学校との練習試合に登板した。マウンドに上がった時点でホークスが22対0とリードしており、力の差は明らかすぎるほどの相手だった。しかし、1回1安打6四死球4失点。目も当てられない惨状だった。

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 その後、もともと指導を受けているトレーナーのもとでフォームのコツを得て、改善に向かった。「投球フォームにチェックポイントを見つけたことが克服の第一歩でした。トルネードで体を捻る際、左の股関節を上の方へ、そして左の脇腹を下へ押し込んで、挟み込むようなイメージを作るんです。で、そこから投げていく」。あの頃、本人が漫画の「ドラゴンボール」を愛読していると話していたので、勝手に「かめはめ波投法」と呼ばせてもらった。

 1年目のうちに1軍デビューも果たした。球速は140キロ台後半をマークする。3年目には「制球難になってから封印していた」というスライダーを再び投げ始めた。

「今投げているスライダーは、以前とは握りが違います。前はツーシームのように縫い目2本に指をかけて、リリースの瞬間に手首をひねる感覚で投げていました。今はボールの左半分を握り、感覚は真っ直ぐと同じように投げます。僕はものすごい縦の変化球を持っている投手ではない。スライダーを投げないと上のレベルで勝負できないと思ったので、新しいスライダーに挑戦することにしました」

左が以前の握り、右が2017年からの握り ©田尻耕太郎

 しかし、もう一つ、上のところになかなか到達できない。左肘を痛め、昨年8月に「左肘鏡視下関節内遊離体摘出術」を受けた。メスを入れたが、年が明ければ投げられる程度の手術だったのだが、球団から戦力外通告を受ける。そして育成選手として契約したのだ。

 今年「背番号143」からの再出発。かつての輝きが眩しすぎる分、影が余計に濃く映ってしまう。しかし、島袋は絶対に下を向かない。

「時々言われるんです。甲子園で優勝しなかった方がよかったんじゃないかって。それが今の僕を苦しめているんじゃないかと心配してくれる気持ちはわかります。だけど、僕はそんなこと考えたこともない。甲子園で優勝したからこそ今の僕があるし、僕の人生があると思っていますから」

 そして、島袋は言う。

「球自体は今年が一番いいです。スライダーは特に軸になる球として使うことが出来ています」

 直近の登板は7月28 日の徳島インディゴソックスとの定期交流戦。先発して7回10奪三振の力投を見せた。3軍ではここまで38回を投げてイニング数を大きく上回る48三振を奪っている。しかし、2軍公式戦での登板は5試合だけ。5月24日のドラゴンズ戦を最後に、ずっと3軍暮らしが続いている。

「自分が理想としていた7月の迎え方は出来ませんでした。(支配下登録は)現実的に難しいでしょうね」

「誰かが見てくれている」

 7月29日にホークスは育成枠だった大竹耕太郎を支配下選手登録した。2軍戦で22試合8勝(リーグ1位)0敗1セーブ、防御率1.87と文句なしの成績を残していた。これでホークスの支配下選手は上限いっぱいの70名となった。

 島袋をはじめとした残る23名のホークスの育成選手たちは、それでも8月の酷暑と向き合いながらグラウンドに立ち続ける。

「やってきたことを続ける。気持ちは同じです。それに、どんな時でも好きな野球で活躍したいという気持ちは変わらない。それを無くしたら終わりですから」

 関川3軍監督も心のケアにも気を配るといったが、「だからといって甘やかすわけじゃないよ。それにホークスで育成だった選手が他球団に行って1軍で活躍している例もある。誰かが見てくれているんだから、抜いたプレーや練習をすることは絶対に許されない」と言った。

 琉球のトルネードやロマン砲たち、愛嬌たっぷりの若鷹たち、2軍で21試合に登板して防御率1.82の好成績を残しながら支配下復帰にあと一歩届かなかった川原弘之……。

 これからだって彼らが前を向き続ける。だから、僕は取材者として変わらず彼らを追い続ける。

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