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事業承継はイノベーションのチャンス 継がせる側・継ぐ側の覚悟が問われている

特別広告企画 事業承継M&A特集

団塊世代の大量退職や人口減少、少子高齢化など日本経済を取り巻く環境が年々厳しくなっている。中小企業庁によると、2025年には日本企業の3分の1にあたる127万社が廃業の危機を迎えると言われている。そのほとんどは経営者の高齢化と後継者不足によるもの。優良企業であっても後継者がいないためにやむを得ず事業を畳む人が増えているのだ。優良な中小企業が廃業を迎えることは、日本経済の衰退を招くことにもなりかねない。そんな中、円滑な事業承継を支援する動きも活発になってきた。そうした現状を専門家はどう見ているか。中小企業の動向や事業承継に詳しい立教大学名誉教授の山口義行氏に話を聞いた。


低成長時代に会社を引き継ぐ意味とは

――中小企業の後継者不足が問題になっています。現状をどうご覧になっていますか。

立教大学名誉教授 中小企業サポートネットワーク (スモールサン)主宰 山口 義行氏
経済学者として金融・経済に関する研究や政策提言を行う一方、中小企業サポートネットワーク(スモールサン)主宰として中小企業支援活動を続けている。外務省参与として中小企業の海外進出支援に、関東経済産業局「新連携支援」政策の事業評価委員長として中小企業の連携支援政策に携わってきた。
立教大学名誉教授 中小企業サポートネットワーク (スモールサン)主宰 山口 義行氏
経済学者として金融・経済に関する研究や政策提言を行う一方、中小企業サポートネットワーク(スモールサン)主宰として中小企業支援活動を続けている。外務省参与として中小企業の海外進出支援に、関東経済産業局「新連携支援」政策の事業評価委員長として中小企業の連携支援政策に携わってきた。

 日本の中小企業の場合、子どもが親の事業を承継するケースが一般的でした。この親族型の事業承継がいま、うまく機能しなくなっています。子どもが親の事業の後を継がないのはなぜでしょうか。「親の仕事に魅力を感じない」「将来性がない」「後を継ぐ自信がない」などが代表的な理由です。親の仕事に魅力や将来性を感じないのは、中小企業を取り巻く経済環境がかつてほど恵まれていないからでしょう。親の方も子どもが勤め人として働いていれば、それをやめさせてまで事業を継がせることに迷いがあります。だから「本人に任せます」というわけです。

 しかし本人に任せるのであれば、事業に関連するあらゆる情報をすべてオープンにし、自分の考えや気持ちを正直に話したうえで、最終的な判断を子どもに任せないといけません。「本人に任せる」といいつつ、子どもの方から事業を継ぐ意思を示してくれることをひたすら待っています。

――子どもとしても「継いでほしいのかな」と思いつつも、「いまさら事業を継げといわれても……」という心境でしょう。

 その通りです。お互いにきちんと現実に向き合っていないわけです。後継者不足に悩んでいる経営者の多くは、70年代以降に社長になった人でしょう。高度経済成長期は過ぎましたが、店舗を拡大したり設備投資をしたり、従業員を増やしたりと、日本経済全体で量の拡大が進んだ時期でした。量の拡大はわかりやすいので面白いものです。

 量の拡大を追求できたのは、日本全体で成長率が前年比4~5%程度を維持していたから。しかし2000年以降はどうでしょう。経済成長率は前年比1%あるかどうかというレベル。そんな時期に量の拡大は期待できません。継いだところで、目標を見いだせない中小企業はたくさんあります。だからこそ経済成長率が1%に満たない時代に、会社を引き継ぐというのはどういうことなのか、お互いに腹を割ってきちんと議論すべきではないでしょうか。

事業承継やM&Aはゴールではなくスタート

――量の拡大を追求できない時代の事業承継とは、どうあるべきでしょうか。

 事業そのものを引き継ぐのではなく、「事業を作り出した舞台」を承継すると考えるべきでしょう。舞台とは従業員や工場、取引先、金融機関などこれまで事業を行ってきたインフラです。その舞台を利用して、何をするか、どのような演目や踊りを行うかは、承継する側が時代と対話しながら考えていけばいいのです。

 それならば、親が子に継がせる以外にも、M&A(合併・買収)や社長候補をヘッドハンティングするといった選択肢が考えられます。そんな大胆なことができるのが、事業承継のタイミングなのです。

 例えば、タニタという会社があります。もともと金属加工会社でしたが、70年代に健康を「はかるもの」へと事業を特化し、ヘルスメーターで大きく飛躍しました。現在は「『健康をはかる』から『健康をつくる』へ」という新たな企業理念を打ち出し、人々の健康づくりをより幅広くサポートする企業として時代に合致した事業を展開しています。

 同社のこうした事業展開は、すべて事業承継のタイミングで起きました。つまり事業承継とは、イノベーションを生み出す大きなチャンスなのです。

 「舞台」を引き継いで、その上で新しい事業を構築するという発想になれば、誰が引き継いでもいいし、M&Aを活用する方法もあります。事業承継は新たな出発であり、M&Aもゴールではなくスタートです。

 日本企業の強さの源泉とは、中小企業の数が多いことに他なりません。事業承継はイノベーションのチャンスと考えれば、多くの中小企業にいま、イノベーションのチャンスが訪れているわけです。いまという時代の事業承継とは何なのかということを当事者がきちんと議論したうえで、この機会を前向きに捉えてほしいと思います。