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「東京地検特捜部」接触することさえ難しい特殊組織の正義とは?

著者は語る 『巨悪』(伊兼源太郎 著)

『巨悪』(伊兼源太郎 著)

「“東京地検特捜部”という誰も入ったことのない土地のど真ん中に、一番最初に旗を立てた気分です」

 特別捜査部は、東京、大阪、名古屋の地検にのみ設けられ、政治家の汚職や脱税、経済犯罪などの捜査を行う機関だ。これまで東京地検特捜部を舞台にした小説はあまりなかった。元新聞記者である伊兼さんはあえて未踏の分野に挑戦し、この度『巨悪』を上梓した。

「そもそも、地検は検事に接触することさえ難しい特殊な組織です。とりわけ特捜部はさらにその難しさに輪がかかります。記者時代に行った地検の取材経験に肉づけしながら書いていきました」

 主人公は東京地検特捜部財政班検事の中澤源吾、39歳。上智大学出身で、25歳で司法試験に合格した中澤は大切な家族をある事件で失っている。高校時代、中澤と野球部でダブルエースだった東大出身の城島毅は、特捜部機動捜査班の事務官を務めている。城島もまた喪失感をかかえた人物。2人は、政治家が夏祭りに配った手ぬぐいの捜査を端緒に、巨悪を追及することになる。中澤と城島の正義感の源は、大切な存在を失ったことにあった。

「記者時代、ある地方の通り魔事件を取材しました。全国版には載らない扱いの事件で、犯人の動機は『むしゃくしゃしていたから』という典型的なもの。裁判も型通りに進みました。実際、供述通りだったのかもしれませんが、私には腑に落ちなかった。こうした一般的な司法への疑念を持ちつつも、ちゃんと正義感を持ち、頑張って働く検事や捜査員はいるので、その姿を書きたいと思いました」

いがねげんたろう/1978年東京都生まれ。上智大学法学部卒業。新聞社勤務などを経て、2013年に『見えざる網』(受賞時「アンフォゲッタブル」を改題)で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。検事を主役にしたのは連作短編『地検のS』に続き2冊目。

 他の捜査仲間も個性的だ。中澤を助ける特捜部の事務官・臼井直樹や、同じ検察官の高品和歌ら、人間臭い面々が清涼剤となる。臼井と高品は「あー、せっかく特捜部にいるんだし、巨悪を暴きたい」と、軽口をたたくほど巨悪という言葉には現実感がない。

「『巨悪』という直球のタイトルにするには、覚悟が要りました。3年かけて小説の内容を考えるうちに、途中で別のタイトルにしようとも思うのだけれど、やはり物語は『巨悪』という言葉に帰ってくるんです。正義感溢れる主人公が対峙するのは誰だと考えたときに、それは『巨悪』だろうと」

 人は大人になるにしたがって、正義と悪がきっかり分かれた存在ではないことを知る。

「検察官は正義の立場であって欲しい。しかし、人は生きていると、よき心をもってよきことをしても、結果が悪くなってしまうことがある。検察官にはその気持ちも汲んで欲しいのです」

『巨悪』
東京地検特捜部の検事・中澤源吾と特捜部機動捜査班の事務官・城島毅。高校時代野球部のダブルエースだった2人の前に立ちはだかる、政治家、企業、秘密機関――そして「消えた2兆円」の行方は? 真相に辿り着く過程で現代の「巨悪」の正体が明らかになる。元新聞記者である著者渾身の検察ミステリー巨編。

巨悪

伊兼 源太郎(著)

講談社
2018年6月21日 発売

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