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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『生きのびるために』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

死者と共に向かう食卓

2018/07/08

 一人暮らしの家や、若いご夫婦の家にお邪魔して、お食事をご馳走になるときは、リラックスできるけれど、これが誰かの実家となると、途端に、妙に緊張してしまう。

 きっと“家族の食卓には死者がいる”からなんだと思っている。どこの家にも、親や兄弟や……時にはもっと若い死者がいて、亡くなってからも、家族と一緒に食卓を囲んでいる。そこにお邪魔しているからこそ、この世から一歩踏みだしてしまったような不思議な感覚に襲われるんだろうなぁ、と。

 さて、この作品は、二〇〇一年のアフガニスタンを舞台にした社会派アニメーション映画だ。タリバン政権下、自由を奪われた十一歳の少女パヴァーナが必死で生き抜く姿を描いている。

 

 家族は、戦争で片足をなくした元教師の父、母、姉、幼い弟。兄もいたが、昔亡くなっている。女性は顔と髪を隠さねばならず、女性だけで外出することも、読み書きすることも禁じられた世界――。父は、学校で習ったことを忘れちゃったと嘆くパヴァーナに、こう諭す。「忘れたくないことは物語にしなさい。物語は心にずーっと残るからね」

 やがて、父が無実の罪で連行され、家には女と幼児だけが残された。パヴァーナは家族を養うため、髪を切って少年に化け、働きに出る。心の中でこっそり“冒険者になって象の怪物を倒す”物語を作り、唱えながら。忘れたくないこと、つまり、勇気と誇りを、心にずーっと残すためにだ。

 でも、戦争は容赦ない。つぎつぎ死体を積み重ねていく。その光景を呆然と観ながら、わたしは、あぁ、もしこの先パヴァーナが一人ぼっちになってしまったら、どれだけの死者と共に、未来の家族との食卓に向かうことになるのだろう、と胸を突かれた。

 同名の原作小説(デボラ・エリス著)も、より詳しく描かれていてお勧めです。続編と、親友ショーツィアが主人公の番外編もあります。

INFORMATION

『生きのびるために』
Netflixにて全世界配信中
https://www.netflix.com/jp/title/80217121

生きのびるために (外国の読みものシリーズ)

デボラ エリス(著)

さえら書房
2002年1月 発売

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