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さだ いいなあ、その話。ところで、どうして馬主になろうと?

萩本 競馬のロマンに惹かれて馬主になった、というなら話はきれいでしょ。でも、最初は馬主になれば馬券が当たると思ったの。

さだ 逆に当たらないですよ。自分の馬から買ってしまうんだから。

萩本 だから、僕は自分の馬に教わったのよ、競馬のロマンを。

さだ いいね、ロマンですか。欽ちゃんが馬を買うときは、血統などを気にされるんですか。

欽ちゃん、それ、馬主じゃない、ただのいい人(笑)。

昭和52年2月5日、愛馬パリアッチが初勝利。東京競馬場ではにかみながら口取りする萩本さん。(JRA)
昭和52年2月5日、愛馬パリアッチが初勝利。東京競馬場ではにかみながら口取りする萩本さん。(JRA)

萩本 まったく。僕は牧場のお父さんの人柄が好きだから買うの。牧場に行っても、馬は見ない。お父さんと話をして、「お父さん、いい人だね。こんないい人が育てたんだから、馬もいいんじゃない、買った」って。

さだ 欽ちゃん、それ、馬主じゃない、ただのいい人(笑)。

萩本 それでいいのよ。僕は人間の物語が見たいんだから。その馬を育てた人の話が好きなのね。よく買っていた牧場のおばあちゃんが、僕の馬に向かって「東京に行って、欽ちゃんのために走るんだよ。ばっちゃんが頼んだからね」と話しかけているところをビデオに撮って送ってくれたの。それを聞いていた馬も、柵の中でコクンコクンと首を下げている。

さだ いい話ですね、泣ける!

萩本 そういう話があったら、走ると思うじゃない。

さだ 思います。

萩本 でも、どん尻なの(笑)。

さだ ドラマに結果を求めてはいけないんですね。でもペーソスがあって、いい話だなあ。

萩本 ただ、最近は牧場も言わなくなったね、「ひょっとしたら、走るよ」って。昔は、「欽ちゃん、馬なんて走ってみなきゃわからないから、ひょっとすると、ひょっとするよ」なんて言っていたけど、今は「ダービーは無理だよ」ときっぱり。血統とか科学的になっちゃってるから。

さだ でも、血統が良くなくても、キタサンブラックという例もあるわけですし。

萩本 あの馬なんて、「ひょっとすると」というみんなの夢をパッと咲かせてくれた素敵な物語だよね。最近は他にも、日本から世界に通じる馬が出てきているんですよ。こういう馬は、とても大事。そのおかげで、競馬を応援してくれる人もとっても増えるし。でもね、僕は、すごく強い牧場とか、血統とか、そういうのじゃないの。さっき話したみたいに、牧場のお父さんとの人間関係。だから、みんなが向く方向には行かないの。

『ひとりぽっちのダービー』にはモデルの馬がいるんです。

さだ 欽ちゃん、僕がつくった『ひとりぽっちのダービー』という歌には、モデルになった馬がいるんです。鳥取砂丘で観光客を乗せていた馬で、調べてみたらサラブレッドで中央競馬を走っていた。タカイサミという名前で、成績は7戦7敗。最後のレースが11頭中7着で京都競馬場だったんだけど、同時刻に東京競馬場では時代をつくったハイセイコーの引退式が行われている。その対照的な物語がすごく面白くて。僕、そういう弱っちいドラマも、好きなんです。

萩本 昔、ダイシンボルガードという馬がいてね。昭和44年のダービーで6番人気で勝ったんだけど、担当の厩務員さんが相当うれしかったんだろうね、「俺の馬だ」って叫びながら、最後、ゴール前にさしかかったところで係員の制止を振り切ってコース上に飛び出してきたの。そのときから、僕の中では競馬は単なる博打ではなく、スポーツになったの。人を感動させるドラマに。

今年の日本ダービーで約12万人の大観衆の前で国家斉唱するさださん(JRA)
今年の日本ダービーで約12万人の大観衆の前で国家斉唱するさださん(JRA)

さだ 競馬って、いろんなドラマがあるから面白いんですよね。今年のダービーも、ディープインパクトの子が3頭、そのディープが唯一黒星を喫した日本馬であるハーツクライの子どもが4頭出走していて、親の世代の戦いが子の世代でも味わえる。競馬は代替わりが早いから、自分の好きだった馬の子が走ると、つい、そっちも応援したくなっちゃう。僕はシンボリルドルフという、眉間に「旗本退屈男」みたいな傷じゃないけど、白い蒙古斑がある、7冠馬が大好きで、写真集も買っているんです。だから、ルドルフの子のトウカイテイオーも大好きで応援していたら、偶然、トウカイテイオーの調教師がさっき話をしたタカイサミを預かられていた松元(正雄)先生の息子さんだったんです。その松元(省一)先生から、「これも何かの縁だから、トウカイテイオーの引退式で花束を贈呈してほしい」と言われまして。

萩本 人と馬、それぞれの親子の物語だね。

さだ 僕、その前の日、眠れなかったんですよ。どうやって、馬に花束を渡すんだろうって(笑)。ニンジンを渡すのだったらわかるじゃないですか。でも花束だから、首にレイみたいにかけるのかなと悩んでいたら、結局、馬主の内村(正則)さんに花束を渡す役割でした(笑)。