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萩本 そういう表街道の馬主とは違って、僕は裏街道だから。お付き合いのある調教師の先生も、1月からレースをやっていて、8月になって「欽ちゃんの馬でやっと1勝、厩舎も1勝目だよ」っていう人もいる。高い馬を入れていないんだろうね。馬って、育ててもらうのにとてもたくさんの人が関わるの。生まれた牧場、デビューまで育ててくれる牧場、調教師の先生、お世話をしてくれる厩務員さん、その他にも本当にたくさん。全部の馬に、きっとどこの雑誌にも新聞にも載らない、小さなドラマや人間模様があるのね。それを僕は馬主として見ていたいの。

さだ 人情ドラマですね。じゃあ、あまり調教師にも「この騎手を乗せてくれ」とか「このレースに使ってほしい」とか言わないんでしょ。

菜七子ちゃんが乗ると聞いて思わず競馬場に…

萩本 何も言わない。今年1月のフェアリーステークスで藤田菜七子ちゃんに乗ってもらったときも、小桧山(悟)先生が「今度、菜七子ちゃんを乗せるから」「わあ、素敵」って。普段、競馬場にはあまり見に行かないんだけど、そのときは、「菜七子ちゃんとツーショット写真を撮ってあげる」って先生に言われたから、思わず足を運んじゃった。レースもきちんと見ないで、写真を撮って帰ってきた!

さだ そういう、大店の大旦那みたいなところ、好きだなあ。手代に任せて、「わしはようわからんけど」って、算盤もはじかない。

萩本 相手はプロですから。プロにひと言でも余計なことを言ってはいけないですよ。

さだ 僕も、もう少しお金に余裕ができたら、馬主になりたいと思っているんです。でも、いろいろと言っちゃうんだろうな。「もっとうまい飼い葉にしろ」とか「蹄鉄を変えろ」とか。もう名前は決めてあるんです、白い馬だったらユキノフルマチオーって。馬主にとって、自分の愛馬に名前を付けられるのは大きな魅力のひとつですが、欽ちゃんは名前をどうやって付けているんですか。パリアッチというのはオペラからきているんですよね。

萩本 イタリアのオペラで、道化師という意味。友人にぜひ名前を付けさせてくれって言われて。最初の頃は、全部、オペラからとっているの。オペラの話も覚えられるしね。

さだ 今、走らせているジョブックコメンというのは?

萩本 最近は自分で付けているんだけど、ジョウ(上)+ブック(本)という意味で、本の表紙になるような活躍する馬になってほしいと。コメンはドイツ語で「来る」。

さだ 馬主になると、勝負服のデザインも自分で決められますが、欽ちゃんの場合は?

萩本 デザインを決めるときに、勝負服で一番選ばれない色は何ですかって聞いたら、ピンクと言うから、だったらピンクにしようと思ったの。

さだ ピンクって、あまり選ばれないものなんですね。そう言われてみると、僕、欽ちゃんのラジオとかずっと聴いていましたけど、聞き手がこっちかなってほうへは行かない人だったですよね。うん、人の裏に張る、天邪鬼なところが欽ちゃんっぽいなあ。

欽ちゃんは、『巨人の星』の星明子さんなんだ。

萩本 僕、印象に残っている馬主さんがいてね。昔、頭の真っ白なおじいさんに馬主席で「欽ちゃん、何歳で馬主になったの?」と聞かれて、「30です」と答えたら、「欽ちゃんはいいねえ、30歳で夢をかなえられて。私なんて70歳でやっと夢だった1頭を持てるようになったんだよ、羨ましいなあ」と言われたことがあったの。その言葉を聞いて、すっと背筋が伸びたの。僕みたいな若造が偉そうにしちゃって、そんな想いを持って馬主になるおじいさんや他の馬主さんたちの世界で、大きな顔をしてしまっていなかったかと思って。

さだ その遠慮した感じが、とっても欽ちゃんっぽくて、僕、好きです。恥じらいというか、慎ましさというのか、そういう感覚を今の日本人は失っている気がします、僕を含めて。

萩本 僕はいろんな遊びをこれまでしてきたけど、やっぱり馬主が最高だと思う。いろんな人の物語がそこに詰まっているから。それだけ面白いからこそ、僕は競馬場にあまり見に行かないの。近くに置かずに、敢えて遠くに置いて、そっと大事に遠くから見ていようと。

さだ わかった! 欽ちゃんは、柱の陰からじっと見守っている『巨人の星』の星明子さんなんだ。馬主さんと欽ちゃんって最初僕の中でイメージが繋がらなかったんだけど、やっぱり欽ちゃんは欽ちゃんだった。僕、欽ちゃんの馬、応援します。

萩本 でも、勝てないよ(笑)

さだ じゃあ買わないけど、応援はする(笑)。欽ちゃんは素敵な馬主さんですね。

撮影:杉山拓也
撮影:杉山拓也

※愛馬会会員は匿名組合に出資しているものであり、馬主とは異なります


提供:日本中央競馬会
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