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「シナジーおじさん」は信用できない――アマゾンの競争優位は「順列」にあり

楠木建の「好き」と「嫌い」 好き:タマゴサンド 嫌い:ローストビーフサンド

2018/07/17

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 子どもの頃、はじめてタマゴサンドを食べたとき、その美味しさに驚いた。美味しいのだけれど、パンに挟んである薄黄色のペースト状のもの、この正体が判然としない。次の機会に母の製造工程を見学してみた。それがゆで卵を粉砕してマヨネーズであえたものだと分かり、もう一度驚いた。

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 ゆで卵とマヨネーズと白いパン、それぞれ別個にはそれまでに何度も食べたことがある。しかし、それらが三位一体となって「タマゴサンド」になる。味といい舌触りといい、何ともいえない美味しさ。組み合わせの妙に感動した。

ホットドッグの幸せ

 チーズバーガーも美味しい。パンとハンバーグとケチャップ(および若干の野菜やピクルス)の渾然一体。これだけでも十分に美味しいのだが、そこに薄切りのチェダーチーズを一枚加えるだけで、美味しさが5割増しになる気がする。パンにしみこんだ肉汁。とろりと溶けたチーズ。見ただけでそそられる。これまた組み合わせの妙だ。

 小学校の高学年で日本に戻ってくるまで、アフリカ大陸の南端にある南アフリカ共和国のヨハネスブルグという町で育った。昭和40年代前半、日本にマクドナルドはまだなかったが、当地には「Dバーガー」というローカルなハンバーガーショップのチェーンがあった(マクドナルドはまだヨハネスブルグにもなかったように思う。ケンタッキーフライドチキンはあった。これもまた好物)。

 Dバーガーの競争相手に「ウィンピー」というチェーンがあった。ウィンピーは南アフリカ資本のハンバーガーの会社で、一時は果敢にも日本に進出してきた(現在は撤退)。言うまでもなく(といっても、若い読者は言っても分からないと思うが)、ポパイに出てくるキャラクター、ハンバーガー好きのウィンピーにちなんだ名前である。ハンバーガーが食べたくて、ポパイにいつもカネをせびっている迷惑なおっさんなのだが、ま、気持ちは分かる。

 Dバーガーかウィンピーか。選択肢を与えられると僕は躊躇なくDバーガーを希望した。Dバーガーにはウィンピーにないメニューがあったからだ。ホットドッグである。

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 このホットドッグがまた僕の大好物。パンとソーセージとケチャップとマスタード(できたらレリッシュも加えたい)。一口かじると、ソーセージの肉汁が口内に溢れ、柔らかめのパンと一体化し、ケチャップ&マスタード(&レリッシュ)と幸せな邂逅を遂げる。横長形状も食べやすくてイイ。シンプルにして実に美味しい。僕の好みでは、ホットドッグに限って言えばチリとかチーズとかのオプションを加えないほうがイイ。組み合わせの妙がよりストレートに味わえる気がする。

 お腹ペコペコでDバーガーに行き、チーズバーガーとホットドッグとフレンチフライとファンタグレープ(子どもはなぜかコークでなくてファンタを推奨されていた)をオーダー。チーズバーガーとホットドッグ、さてどちらから食べようかな――。確かな幸せの瞬間だった。

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