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直木賞『ファーストラヴ』島本理生が語る「恋愛最大のリスク“変な感じのする男”に特徴的なこと」

島本理生×星野概念#1「心の調子が悪いときには気軽にカウンセリングを」

「メンヘラ」という言葉が苦手

『ファーストラヴ』(島本理生 著) 第159回直木賞候補作
『ファーストラヴ』(島本理生 著) 第159回直木賞候補作

島本 小説の中で「男メンヘラ」という言葉が出てきます。私は「メンヘラ」という言葉自体は、内面の深刻さを揶揄するような印象を受けるので好きではないんですが、その一方で、精神的な不安定さが女性特有のものと思われがちなことにずっと違和感を持っていました。女性を振り回す精神が不安定な男性もいるのではないか、と思っています。

星野 環菜が迦葉について「あの人男メンヘラですよね」と言って、由紀に「そんな言葉は使っちゃいけない」と諭される場面ですね。僕はここを読んだ時、「いいぞ」って思いました。僕は「メンヘラ」という言葉がすごく苦手なんですよ。その言葉が何を指しているかわからないから。
それはともかく、迦葉のように何らかの愛情の枯渇とか十分な愛着をはぐくんでこれなかったゆえの不安定さとか、相手を振り回すことによって自分の心を安定させる心の構造を持った男の人は全然いると思います。

島本 女性の場合、不安定になったときもストレートに自分の気持ちを出すことが多いような気がします。「どうして一緒にいてくれないの!」とか「あなたがいなかったら死んじゃう!」みたいに、泣いて相手を追い詰めたりする。でも男性の場合は逆で、「俺はお前に全然執着していない」という態度を取りながら、離れようとすると気を引くことを言い、近づいていくと逃げるみたいな人いますよね。一見女性側が執着しているように見えるけど、実際はそう仕向けているような……。

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©末永裕樹/文藝春秋

モテそうだけどイライラさせる男性

星野 結局相手に自分を見ていてほしい、ということなんじゃないでしょうか。でもそういう人ってモテそう。島本さんのイライラも伝わってきました(笑)。

『ファーストラヴ』で言えば迦葉は本当にそういう人に見えます。何をどのタイミングで言ったら相手の心がフラフラするかちゃんとわかってる。

島本 そういう人って、それで相手をコントロールすることができた成功体験があるから、繰り返してしまうのかもしれません。

星野 モテる人は、きっとそれを把握しているんですね。

島本 昔、変な感じのする男の人がいたんですよ。その人がよく使っていたのが「あ、そういう受け取り方するんだ」っていうフレーズです。それが何となく気分が悪かった。

星野 ちょっと上から目線の言葉のような印象を受けます。

島本 それに加えて、もしかして私はこの人の言葉を間違って受け取っているのかも、という気持ちにさせられるんです。すると不安になって、「じゃあ本当はどうなの?」と聞くんですが絶対に答えてくれない。

星野 自分が何を考えているかを気にさせるんですね。