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新“直木賞作家”島本理生が語る「別れ話は密室でしないほうがいい理由」

島本理生×星野概念#2「カウンセリングは裁判に似ている」

note

裁判の休憩中に弁護士さんが○○の悪口を

星野 『ファーストラヴ』前半は臨床心理士の由紀と殺人者・環菜の面会室での心理サスペンス。後半は一転法廷劇になります。取材のために裁判所にも通ったと伺ってますが。

島本 この小説を書くためにかなり裁判所に通いました。殺人事件を中心に見学していましたが、地方が多かったので6時の新幹線に乗って9時半に裁判所に到着みたいな感じで。早起きが一番辛かったです(笑)。

星野 お疲れ様でした(笑)。これまでに裁判を見に行ったことはあったんですか?

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島本 ほとんどなかったんですが、実際に行くと発見がありますね。小説にも書きましたが、休憩時間中に自販機のところに行くと弁護士の先生が検察官の悪口をすごい勢いで言っていて。そのまま書いたら、言葉が激しすぎるので、小説の中の会話のほうがまだソフトにしてあります(笑)。

星野 それはすごいですね。

©末永裕樹/文藝春秋

裁判には身を守るためのヒントがいっぱい

島本 あと、私が見かけた傍聴マニアみたいな人はだいたい男性なのですが、今回取材をしてみて、若い女性こそ裁判を見に行った方がいいと思いました。

 内容的には辛いものが多いんですけど、その代わり、何か危険なことが起きたときに人はどう行動すればいいのかっていうヒントがいっぱい詰まっているんです。

星野 例えばどんなヒントですか?

島本 これは声を大にして言いたいですが、絶対に別れ話は密室でしない方がいいです。

星野 そういう事件があったということですか?

島本 そうなんです。密室で別れ話していて、もし相手の男が逆上して殺されてしまったら……殺されただけでも悲劇ですが、彼が裁判で「別れ話をしようとしたら、彼女が自殺しようとした」って証言したケースがあって。しかも男性側が、それまでも女性側が不安定だったことを示す証拠を出してきたことで、真相が藪の中状態になってしまっていて。結局、本当のところは当事者同士にしか分からないし、当事者同士でさえ、実際は食い違っているかもしれない。

星野 それはそうですよね。他には何か発見がありましたか?

島本 ほかにも、親族間のトラブルが泥沼化したケースや、強盗を追いかけてさらに深い怪我を負わされたりした事件を見て、これは危ない、なにか変だと感じたら、多少の損失はあっても早めに距離を取ったり逃げるのが大事だな、と……本当に勉強になりました。