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衝撃の講談師・神田松之丞が語る「“あの番組”で笑いを取りに行かなかった理由」

テレビっ子講談師・神田松之丞インタビュー #1

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『笑点』の大喜利なんかどう考えても、プロレスですからね

―― その頃は、「闘魂三銃士」全盛の頃ですか?

松之丞 三銃士ですね。「TEAM2000」の蝶野(正洋)とか、まさに「nWo」を作ったりとか。橋本(真也)だったり……。UWFが終わって、UWFからプロレスと格闘技に分かれていく、その端境期。

―― その頃のプロレスファンの場合、「ヤオガチ論争」みたいなのがあったと思いますが、松之丞さんはどの立場でしたか?

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松之丞 これが難しくて、八百長だという証拠が何もないわけですよ。だから守るしかないですよね(笑)。みんな「八百長」か「ガチ」かの2択しかないっておかしいだろう、グレーゾーンで楽しむのが面白いうまみのところだぞと。そのエンターテイメント性みたいなのを主張してました。

 

―― 松之丞さんの新作講談「グレーゾーン」ではミスター高橋の本(『流血の魔術 最強の演技』)でショックを受ける姿が描写されてますね。

松之丞 だからあれは、プロレスファンを追い込みましたよね。僕、『紙のプロレス』とかでやってるのは、読み物として面白いなと思ったんですよ。ああいうちょっとバカにする視点というか。でも高橋本によってそういう視点が席巻してきて、プロレスをみんなでバカにしながら観るみたいな空気が、一時的に主流の視点になったような気がして。プロレスに敬意がないというか。その時期のプロレスというより、観客にヘドが出るほど嫌になりましたね。あくまで、私が見聞きした感じで、主観ですが。

―― 「グレーゾーン」ではそこから『笑点』の話につながっていきますね。

松之丞 『笑点』の大喜利なんかどう考えても、プロレスですからね。講談師としては15年ぶりくらいに演芸コーナーに出た時に、楽屋で師匠方が大喜利の打ち合わせをしてるのを聞いて面白かったですね。

 

―― へえ、そうなんですね。

松之丞 いや、軽いものですよ。今回はこういうキャラで行くからね、みたいに軽く合わせる感じ。

寄席は緩い空気が流れているようでいてガチ

―― 『笑点』の収録現場はどういうものでしたか?

松之丞 後楽園ホールでの収録だったんですけど、前の方のお客さんは「笑い屋さん」だと思ってたんですよ、大喜利のこともあるし。そしたら座って1分でわかりましたけど、ガチなんですよ。なんであいつらプロレスやってるのに、俺だけガチでやらされるんだって(笑)。目の前のおっさんなんて、もう疲れて寝てるみたいな。ピクニック気分で来てたのに、なんでガチやらされてんだ俺っていう……パキスタンのアクラム・ペールワンとやった時のアントニオ猪木の気持ちになりましたよ。

 

―― 招待されてきたはずなのにって(笑)。

松之丞 何とか対応できたのは、ずっと寄席でやってきたからだと思いました。寄席は緩い空気が流れているようでいてガチだから、大御所もスベる時は思いっきりスベるんです。それで若手の前座に負けることさえある。