文春オンライン

“講談界の超新星”神田松之丞が語った「芸人が終わるとき」

テレビっ子講談師・神田松之丞インタビュー #2

note

師匠がいるってメリットしかありませんよ

―― 古典芸能の世界は師弟関係が前提としてあると思いますが、最近のお笑い芸人には師匠を持たない人も増えていますよね。師匠がいる、ということは芸人にとってどういうことだと思いますか。

松之丞 僕の場合でしか言えませんが、師匠がいるってメリットしかありませんよ(笑)。こんなありがたい存在はいません。とにかく僕の師匠、神田松鯉が「入り口」を開けてくれたおかげで今の自分がいるとつくづく思っています。亡くなっちゃった歌丸師匠を紹介していただいたり、芸協(落語芸術協会)に入らせていただいたおかげで講談の世界以外の、多くの師匠や同世代の仲間に会うことができた。二ツ目の身分で本を出させていただいたりとか、こうやってメディアに出させてもらっているのも、広く言えば師匠のおかげです。まだ二ツ目の僕が、目立っていろいろやっているのを快く思ってない人もこの狭い世界にはいると思うんですよ。でもうちの師匠は「どんどんやっていいよ。協力するからな」って。実際、今度出る新刊『講談入門』の校閲までしてくださいました。

 

―― もちろんネタも師匠から譲り受けるわけですよね。

ADVERTISEMENT

松之丞 ネタの95%以上は師匠から教わったものですから、つくづく大きな存在だなって思います。何かしくじっても「松鯉先生のお弟子さんだからね」って赦されることもありますし、ホントにいい人のところに入ったなと、それに尽きますね。直接本人に言うことはありませんけど、守ってくれてますよ、俺のこと。いい人のところに入って、いい協会に入って、同世代のいい仲間に恵まれて、さらにはいい波がきているところに乗らせていただいて、何重もの運に恵まれてます。と同時に、運だけじゃねぇぞっていうのもあるんですよ、もちろん。

 

芸人が色のついた話をし始めたら終わりじゃないですか

―― 入門した後ってなかなかテレビを観られなくなりましたか。

松之丞 いや、それでもなんか観てた気しますよね。あんまり観なくなったのは、この3、4年ですかね。最近、芸人が政治について喋るようになったでしょう。あれがとにかく嫌で。なんでそれが嫌かって言うと、芸人がいる場所って、その場だけのユートピアだと思ってるんですよ。右左、色んな考え、思想がある人でも演芸場に来たら仲良く手をつないで一緒に笑うというユートピアを我々はつくらなきゃいけない。それが演芸の素晴らしいところなのに、芸人が色のついた話をし始めたら終わりじゃないですか。おのおの自分の主義主張を持つのはいいんですよ。ただ右派的にせよ左派的にせよ、そういう発言したらその時点で浮世が崩れてしまう。それってもう芸人としては最低な行為、一番やっちゃいけない基本の「き」みたいなものだと思うんです。