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連載高野秀行のヘンな食べもの

時空を超える幻覚剤ヤヘイ――高野秀行のヘンな食べもの

2018/07/24
イラスト 小幡彩貴

 南米のアマゾンにヤヘイ(またの名をアヤウアスカ)と呼ばれる幻覚ドリンクがある。先住民の呪術師が用い、これを飲むと、何十キロも離れた人とテレパシーで交信したり、未来を見ることも可能だとされる。

 ここには先住民の世界観が深く関わっている。彼らによれば、世界は「この世」と「あの世」からできている。「あの世」は世界の源であり、過去・現在・未来や距離の遠近を超えた完全な時空を保持する場である。ふだんは行き来のできない二つの世界をつなぐのがヤヘイによる幻(ヴィジョン)だという。

 アマゾンでフィールドワークを行っていた日本人の文化人類学研究者がすごい報告をしている。彼はヤヘイを飲んだあと、不思議な夢を見たという。「村に住む男性と女性が二人で朝、カヌーに乗って村を出て行く」という夢だ。それだけなら別になんともないが、妙なのはその二人は何も関係がなく、それぞれ妻と夫がいることだった。夢を見た数日後、その男女は村をカヌーで出奔した。実は不倫カップルであり駆け落ちしたとのことだった。つまり、その研究者はヤヘイで未来が見えたのだ。

幻覚つる植物ヤヘイ

 すごいではないか。時空を超える体験ができるなんて。そう思って、当時大学生だった私は単身、南米のコロンビアへ渡った。首都のボゴタからバスを乗り継いでアマゾンの町まで行き、そこから先は、地元の漁師を雇ってボートでアマゾンの支流を丸一日かけて下り、セコヤという民族の村へ着いた。

 木造の家は高床式で、住民は男女とも、頭からすっぽりかぶるマタニティドレスのような貫頭衣を着ていた。顔は日本人そっくりで、髪はこれまた男女とも長く伸ばしている。まるで邪馬台国に来たみたいだった。

 彼らはすでにキリスト教を受け入れておりヤヘイはやめたと言っていたが、私が頼み込むと、かつて呪術師だったグリンゴという中年男性が特別に作ってくれることになった。

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