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半沢直樹の原点ともいえる究極の金融スリラー

『架空通貨』 (池井戸潤 著)

2016/04/09

 世の中には数えきれぬほどの面白い本がある。けれども世の書評がとりあげるのは目下の新刊ばかりなのが実情で、五年前の傑作、十年前の傑作、あるいは書評子にスルーされてしまった傑作に光が当たる機会は無きに等しい。

 あなたが知らない徹夜必至の面白本。それを熱く強くお勧めするのが、当欄の使命なのである。

 その栄えある一冊めは池井戸潤……と言うと、「池井戸潤が面白いのは知ってるよ!」と怒られそうであるが、しばし待たれよ。「半沢直樹」シリーズ『民王』『下町ロケット』などの話題作を一通り読んだら、次に読んでいただきたい初期傑作があるのだ。

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『架空通貨』である。池井戸潤の第二長編、乱歩賞受賞後プロ作家として初の長編であり、本書に若き池井戸潤は己の全てを叩きこんでいる。

 父の会社が倒産寸前だと教え子に相談された高校教師が背景を探るうち、企業城下町を支配する大陰謀が姿を現わす、というのがメインの筋。問題の企業は城下町だけで通用する「紙幣」を刷り、流通させていて、つまり本書は、「貨幣経済」という大スケールのテーマを一つの町の陰謀の物語に見事に凝縮してみせた金融スリラーなのだ。そこに、まだ足りぬとばかりにありとあらゆる金融犯罪のアイデアが盛り込まれ、ここに超贅沢な“究極の金融スリラー”が誕生した。ことに「貨幣」の信用が破綻したらどうなるかを描き出す終盤の光景は鬼気迫る。

 そんな大陰謀小説を「主人公が悪い奴らを倒す」という痛快な物語に仕上げているのは池井戸潤の真骨頂。投入された膨大なアイデア、知的興奮を刺激しまくる思考実験、それを貫く骨太のドラマ――具がぎちぎちの一冊、さあ書店へ買いに走れ。(紺)

架空通貨 (講談社文庫)

池井戸 潤(著)

講談社
2003年3月15日 発売

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半沢直樹の原点ともいえる究極の金融スリラー

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