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加賀温泉郷、2泊3日で温泉街の“原風景”を楽しむ

石川県「加賀山代温泉・山中温泉」――山崎まゆみの二泊三日の温泉三昧

2018/07/29

1300年の長きに渡って愛されている加賀温泉郷。魯山人を偲ぶ山中温泉、自然あふれる山中温泉を2泊3日で味わいつくす

加賀山代温泉/山中温泉 温泉街の成り立ちを知る旅

 

 湯が湧くところに人が集まり、みなが入りやすいようにと共同湯が作られ、遠方からのお客さんのために宿ができた。これが温泉街の始まりだ。

 開湯一千三百年を誇る、山中温泉、山代温泉、片山津温泉、粟津(あわづ)温泉の総称となる加賀温泉郷は、それぞれの温泉に、その原風景を見ることができる。特に山代温泉はわかりやすい。温泉街の中心に「古総湯」が鎮座し、古総湯を囲むように宿が並ぶ。その横には、弁柄(べんがら)色の壁と木造の建物が風情をかもす温泉街「湯の曲輪(がわ)」がある。江戸時代の絵図のようなこの風景は、近年に復元されたものだ。

 まずは古総湯正面にある名旅館「あらや滔々庵(とうとうあん)」にチェックイン。通路の石畳には水がうたれてあり、涼を感じながら玄関をくぐると、魯山人(ろさんじん)が描いた衝立(ついたて)があった。

 まだ無名だった魯山人は大正四年から半年ほど、山代温泉にあった吉野屋旅館の別荘で過ごしている。山代温泉の地には茶や書、骨董に造詣が深い旦那衆がおり、その別荘が文化サロンだった。ここに魯山人が滞在し、夜な夜な旦那衆と語り明かした。当時のあらやの当主もこのひとりで、魯山人に書画や看板を注文しては、彼の生活を支えたという。

山代温泉の温泉街。

 あらやで荷ほどきをした後は、「魯山人寓居跡 いろは草庵」を見学し、古総湯へ。白木で作られた建物には、明治時代の共同湯が再現されている。扉を開けると洗い場はなく、浴場がひとつあるだけ。「湯あみ」という湯に浸るだけの入浴スタイルだ。湯船から湯を汲み上げてかけ湯をしてから浸かると、ステンドグラス越しに光が射し、つややかな湯を照らした。体にも光があたる。見渡すと、壁面は九谷焼のタイルで彩られている。それらの眺めが、実に優雅だ。

山代温泉の「古総湯」。明治時代の総湯を復元している。

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