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亡くなったデニス・テンさん 凍った池でズボン3枚はいて練習していたあのころ

2018/08/03

 カザフスタンの英雄として慕われたフィギュアスケーター、デニス・テンが7月19日、母国内で暴漢に襲われ、25歳の若さでこの世を去った。あまりに突然の悲報に言葉が見つからない。

自家用車のミラーを盗もうとした男2人組にナイフで刺されアルマトイ市内の病院で亡くなった ©JMPA

 テンを初めて取材したのは2009年の世界ジュニア選手権のとき。15歳のあどけない笑顔の少年が、氷上では別人のように躍動感あふれる演技を見せた。

 4位でメダルは逃したが、一目惚れで取材を申し出た。彼も外国のメディアから取材を受けるのは初とのことで、逆にカザフスタンの国営テレビから筆者が取材を受けた。

 テンの演技は単に音に合わせて動くのではなく、身体が楽器になったかのように音楽を語る。その演技力の秘訣を聞くと、7歳から声楽を習っており、コーラスの世界大会で優勝したこともあるという。

 しかし驚く話はそれだけではなかった。5歳でスケートを始めたが、カザフスタンの国民はフィギュアスケートを誰も生で見たことがないということ。国内に選手用リンクは無く、氷点下17度の中、凍った池でズボンを3枚はいて練習したこと。9歳のとき、ショッピングモールに子供向けのリンクが出来ると、毎週末、小さなショーをやってスケートの普及をしたこと。

 しかしそれらを苦労とは呼ばず、「辛い経験も、いずれは素晴らしい経験になるから」と語ったことが印象的だった。