文春オンライン

六本木ヒルズOLだった私が、福井県大野市で空き家探しを始めるまで

日本の「秘境」をフィールドワークする

2018/08/20
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大野で過ごした夜、一人で感じたこと

 大野を2度目に訪れた春も盛りの今年5月、大野市で生まれ育ち、現在も市内でデザインや映像製作の仕事を行う長谷川和俊さんにお世話になった。大野を知り尽くしている長谷川さんと事前に連絡を取り合う中で、遠回しに「無茶だ」と言われていたものの、私にはどうしても挑戦したかったことがあった。それが、自転車だ。

大野市を移動するために使っていた自転車。「めぐRe」というレンタサイクルを利用した。

 地方では比較的どこでもそうだが、大野ももちろん車社会であり、東京では何とも思わない距離でも、大野の人は歩くということをほとんどしない。私が宿泊した民家は街から4キロほど離れており、ざっくりとした計算ではママチャリで25分程度の距離だった。自転車で十分。ペーパードライバーであり、運転に慣れていなかった私がその手段を選ばざるを得なかったということもあるが、自転車なら、町の風景も楽しめるだろうし、よほどの坂道でなければ大丈夫だろう。

 結果だけを簡潔に言うならば、その試みは予想外の形で裏切られる。夜が、とにかく暗かったのだ――。これほどの暗闇を、私はここ数年経験していないように思われた。当たり前であるが、電気(外灯)がなければ夜は暗い。忘れていたわけではない。頭ではもちろん分かっていたのだが、体感したのは久しぶりだったように思う。

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福井県大野市の夜景。街灯はほとんどない。

 闇の中に吸い込まれそうになりながら、しばし立ち尽くす。上空には「日本一」と認められたこともあるという星空が、どこまでも広がっていた。

大雪に見舞われても物資や食料に困らなかった人たちがいた

 今年の2月、私が大野をはじめて訪れたころを振り返ると、ちょうどその時期に「福井の大雪」は全国のニュース番組で毎日のように報道されていた。150センチ以上も積もった雪は、交通に大きく影響し、新幹線はもちろん、公道での荷物輸送の経路も妨げた。それでもなんとか動いてくれていた「特急しらさぎ」でたどり着いた福井駅。コンビニの陳列棚は見事にすっからかんであった。

福井駅近くのコンビニ。パンは一つも売っていなかった。

 大野市内に入っても大型の除雪車は相も変わらず休みなく可動しているのであるが、しかし、少し様子が違う。住民の人々は比較的「いつも通り」という雰囲気なのである。「明日には180センチまで積もるんじゃないか」とつぶやきながら、平然としているように見える。長谷川さんに「物資や食料に困ることはないですか」と聞くと、「今のところない」と返ってきた。

「ガソリンくらいですかね。ガソリンが最近までスタンドになくて、1週間くらい止まってたんかな。まあ、パンとか一部食料が届かないとかはありましたけど、別に……結構みんな備えてるというか。冬は特に。別に不便ないです。特に……今のとこないですね」

2018年2月、「本願清水イトヨの里」の庭からの風景

 市役所に勤める山田明弘さんも、大雪について「大野はもともとが雪降るところなんで、除雪なんかも最初から結構やってます」と語った。困ることはないかと尋ねると、「スーパーなんかも昨日の夜寄ったら、パンとか、ないものは結構あるんですけど、本当に困っているってところまではまだいってないと思います」。