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連載50年後の「ずばり東京」

森 健
2016/09/07

50年後の「ずばり東京」第二回
保育園反対を叫ぶ人たち

待機児童は増えるばかり。なぜ日本人は不寛容になったのか

source : 文藝春秋 2016年9月号

genre : ライフ, ライフスタイル

 

 東急池上線の雪が谷大塚駅を出て西北方向に歩く。北に世田谷区奥沢、西に大田区田園調布という閑静な住宅地・世田谷区東玉川。周囲は比較的広い敷地の戸建てが多く、歩いている人はあまり見かけない。

 十分ほど歩くと、周辺の穏やかさと対照的な黄色い横断幕が目に入る。

〈開設反対!! 住環境の破壊!〉

 穏やかとは言えない表現だが、住民が建設に反対しているのは、さほど危険なものではない。保育園だ。

〈危ない三叉路、坂道、一方通行、ここは保育園には向いていません〉

 そんな文字も横断幕には添えられている。この地区では、昨年来、保育園の建設を巡って住民による反対運動が起こっている。

 もともとここにあったのは、防衛省の宿舎だ。国家公務員宿舎削減計画の中、更地になった土地は五二六平米。二〇一四年十二月、世田谷区はこのまとまった土地を活かすため、保育園を整備することにした。計画したのは定員六十人という中規模の認可保育園で、一七年四月の開園を目指した。

 だが、住民説明会を開いたところ、周辺住民から「開設反対」の声があがった。地域住民の女性は、一部に強硬な反対論があったものの、当初は全員が反対というわけではなかったと語る。

「最初は『住民の声を聞かずに進めるのはおかしい』という程度でした。ところが説明会を重ねるごとに『保育園をつくると、地価が下落する』『毎日のお迎えで自転車の交通量が多くなると危険だ』『騒音がうるさい』と反対派が増えていったように思います」

 行政は説明会を重ねたが、いまなお開設は合意に至らず、現場には更地が広がっている。雑草が生い茂った敷地の中にも〈開設反対!!〉という黄色い横断幕が張られていた。

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