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【新書の窓】芸術と歴史に耽溺

『ショパン・コンクール』『ブッダと法然』『古墳の古代史』『「火附盗賊改」の正体』『田中角栄』

source : 文藝春秋 2016年12月号

genre : エンタメ, 読書

五年に一度開かれるショパン・コンクールはピアニストの登竜門として知られ、アルゲリッチなど世界的スターを生み出してきた。自身もピアニストである青柳いづみこ『ショパン・コンクール』(中公新書)は、昨春の予備予選から秋の本大会までを現地で取材した成果をもとに書かれている。出場者や審査員の話を交え、あるべきコンクール像やショパンの本質、日本人優勝の条件等を探ってゆく。「最後の転調はアリスのウサギ穴のよう」など、独特な演奏評も楽しい。

 浄土宗の寺に生まれた僧侶である平岡聡『ブッダと法然』(新潮新書)は、二人の仏教者をパラダイムシフトを起こした開拓者と位置づける。ブッダと法然の文章は酷似し、生涯にも共通点が多いが「教えでは、重なるところがほとんどない」という。その理由として仏教の自己否定性に言及する部分は読み応えがある。「法然の評価は弟子の親鸞に比べて低すぎる」という著者の熱意が溢れる。

 三世紀以降、日本や朝鮮半島各地に権力者を埋葬した大型墳墓が現れた。「古墳」だ。森下章司『古墳の古代史』(ちくま新書)は、古墳文化拡大の背景にある古代東アジアの「つながり」と、墳墓の構造、形、副葬品などの「違い」を、日中韓における近年の発掘調査の成果をもとに解き明かしていく。日本特有と考えられていた前方後円墳や埴輪を意識した土製品が、九〇年代以降に韓国の栄山江流域で相次いで発見された話など、古代史の常識が揺さぶられる一書だ。

 丹野顯『「火附盗賊改」の正体』(集英社新書)は、時代劇で人気の“鬼平”こと長谷川平蔵ら「火附盗賊改」の実態を描く。明暦の大火以降、江戸の町では放火と強盗が横行したが、それを取り締まったのが、戦国時代に最前線で戦った足軽大将らの末裔である火附盗賊改だった。厳しくも優しい長谷川平蔵だけでなく、過酷な拷問「海老責」を考案した中山勘解由、歴代で最多の火あぶりを執行した山川安左衛門など、そのキャラクターの濃さは時代劇さながらだ。

 服部龍二『田中角栄』(講談社現代新書)は、気鋭の政治学者による著作だけあり、他の“角栄本”と違いアカデミックな公正さを失わない。田中が北方四島という「未解決の諸問題」があることをソ連側に認めさせた事実は今こそ頭に入れておくべきだろう。「直接的契機は金脈問題だが、根本的な原因は経済面の失策というべきであろう。国債の額は過去最高だった」という失脚についての指摘は重く響く。昭和を最も体現した政治家の栄光と挫折を描いた大著だ。(走)

ショパン・コンクール - 最高峰の舞台を読み解く (中公新書)

青柳 いづみこ(著)

中央公論新社
2016年9月16日 発売

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ブッダと法然 (新潮新書)

平岡聡(著)

新潮社
2016年9月15日 発売

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古墳の古代史: 東アジアのなかの日本 (ちくま新書)

森下 章司(著)

筑摩書房
2016年9月5日 発売

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田中角栄 昭和の光と闇 (講談社現代新書)

服部 龍二 (著)

講談社
2016年9月15日 発売

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