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ナメてはいけない「暑さ指数」――災害級酷暑を生き延びるための基礎知識

2018/07/31
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天気予報の気温湿度と、体感する暑さは別物

 ちなみに、気象庁のデータは周囲の環境からの影響を受けないように、「強制通風筒」と呼ばれる装置の中に置かれた温度計や湿度計で、地上1.5mの高さで観測されたものです。強制通風筒は芝生の上などに設置され、二重構造の筒で日射や輻射熱を遮りつつ、さらに内部には秒速5m程度の人工の風が起きるようになっています。小学校にもよく設置されていた「百葉箱」も格子から風を入れるようになっていましたが、強制通風筒はいわばそのハイテク版です。

 たしかにより正確な観測ができるようにはなりましたが、天気予報で目にする気温や湿度は、実際に私たちが体験する暑さとは条件が異なることに注意しましょう。

©iStock.com

部活での熱中症を防ぐために

 暑さ指数を開発したのは、米海兵隊の訓練所です。サウスカロライナ州パリスアイランドの新兵訓練所は湿度が高く、熱中症にかかる新兵も多かったので、その予防のために1954年にこの指数が考案されました。82年にはISOにより国際標準として位置づけられ、94年には日本体育協会(現在は日本スポーツ協会)も暑さ指数に準拠した「熱中症予防の原則およびガイドライン」を発表し、スポーツ中の事故防止に努めています。

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 子どもや高齢者など、体力のない人ほど熱中症にかかりやすいのは事実です。でも考案の経緯からわかるように、ふだんから厳しい訓練で身体を鍛えている人でも、熱中症にはかかります。

 今年の高校野球都道府県大会でも、多くの選手や観客が熱中症にかかり緊急搬送されています。学校の部活動では、やはり炎天下で長時間の練習をすることの多い野球部の死亡事故の多さが目立ちますが、競技人口を考えるとラグビーと剣道での事故の多さも気になります。防具を使用するため熱がこもりやすく、汗が蒸散しにくいことが原因と考えられます。

環境省「部活動中の熱中症対策-屋外スポーツ活動編―」

 体育会系の部活やクラブチームで活動しているお子さんを持つ方の多くは、今年の酷暑に不安を抱いているのではないかと思います。熱心に指導してくれるコーチや監督に、「暑さ指数が31℃なので今日の練習は中止にしましょう」などとは言いにくかったり、熱血派の保護者についつい押し切られてしまうこともあるのではないでしょうか。

 私の住んでいる地域では、市内の小学校が協議し、暑さ指数28℃以上では部活動の練習試合は中止、31℃以上では練習も中止とする決定がなされました。ただ学校管理下ではない地域のクラブチームなどの場合、こうした指針の適用外になってしまいます。

 その場合は、たとえば日本スポーツ協会の下部組織である市町村のスポーツ少年団に、活動ガイドラインの策定とチームへの勧告を働きかけてみるのも有効かも知れません。ガイドラインだけではなく、保護者たちで応急処置の講習を企画しコーチにも参加を促す、そんなところから熱中症への意識を高めるのも一案だと思います。

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