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僕は、天才・村田修一という野球選手を忘れない

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/08/03

村田修一の何が「天才」なのか

 「天才」を「努力」と置いた場合、村田さんは努力タイプではありませんでしたから、これも当てはまりません。努力タイプといえば、当時横浜には内川聖一さんがいました。内川さんはよく練習をし、徹底的に自分と向き合う求道者のような人でしたから、村田さんの豪快さがより引き立ちました。豪快というよりは、周囲の環境に左右されず、自分の人生を生きる能力が高い、という表現の方が正しいような気がします。2009年のWBC日本代表キャンプでは、誰よりも早く宿舎に帰り、「龍が如く」を楽しんでいたそうです。

 では、何が「天才」なのか。それは、村田さんが横浜時代に使っていたバットの重さが960グラムというところ。

 一般的なプロ野球選手の使用するバットの重さは、900〜910グラム。重いバットを使用する人でも920〜940グラム。こうして文字にしてみると数十グラムの差ですが、実際に振るととてつもなく重く感じます。ましてや、960グラムなんていうバットはマスコットバット(主にトレーニング用に使われる通常より重いバット)並みの重さです。「えっ、それってただパワーがあるってことなんじゃないの?」と思った方もいると思いますが、軽いバットで遠くに飛ばす方が、むしろパワーを必要とします。プロのピッチャーが投じる力強いストレートを軽いバットで弾き返すには、相当なスイングスピードが求められます。僕も何度か軽いバットで打ったことはありますが、全力で振っている割には飛びません。むしろ、重いバットをしっかりと遠心力を効かせて軽く振り、芯に当てた時の飛距離たるや、想像を超えるほどです。

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 2008年の村田さんは、剣道でいう上段構えのようなフォームでした。本人曰く、「バットを下に落とすだけ」という打ち方で、46本のホームランを放っています。試合の中で、相手が全力で投げてくるボールに対し、脱力してバットをただ合わせる。まるで合気道のような打ち方で、とんでもない飛距離を生み出す。まず何より、力をあそこまで抜けること、そして重いバットをしなやかに扱えること。これらは、簡単に真似できることではなく、繊細な感覚が備わっていないと成し得ない芸当です。「力」というよりも「技術」。それが、村田さんの根幹にあります。ゴールデングラブ賞を3度獲得するほど、守備もものすごくうまい選手でした。特筆すべきは送球力。スローでミスすることはほとんどなく、球際も柔らかい。ここでも、いつも力が抜けていました。

飛び跳ねる村田修一(左)と笑顔で応える内川聖一(右) ©文藝春秋

 ふと、ここまで書いて気づいたのは、村田さんのすごさは「脱力」にあるのではないかということ。野球に限らず、普段のコミュニケーションでも村田さんは非常に力が抜けています。だから、一見怖そうに見えますが、後輩の僕でも気軽に話しかけることができますし、基本的にナーバスになることがないため、たとえ調子の悪い時でも周りに気を遣わせません。奇抜な髪型やユニフォームの着こなしの時代もありましたが、基本的な人格はいつも変わりませんでした。自分を大きく見せることなく、また、必要以上に謙遜することもせず、誰の前でもいつも自然体で自分自身を表現する人です。

 生きたいように生きる。それが村田さんの生き様だとしたら、今回の引き際(まだ引いたとは信じたくない)も、「オファーがないものは、ない」と、サラリと決断してしまえるところが、村田さんらしいといえばらしいのかもしれません。いずれにしても、僕は村田さんからかけてもらった言葉、見せてもらった背中、村田修一という天才的な野球選手、というより、人として魅力的な男がいたことを忘れません。

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