昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

赤坂太郎
2016/05/10

安倍を悩ます熊本地震という「変数」

本当に衆参ダブル選はないのか? 永田町のシナリオは大幅修正を迫られた

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : ニュース, 政治

カット・所ゆきよし

 衆参ダブル選、消費増税先送り議論はどうなるのか――。4月14日から相次いで発生した熊本を中心とした地震は、夏に向けて永田町で積み上げられてきた政局シナリオに大幅な修正を迫った。

「被害状況の把握と、そして災害応急対策に全力を尽くすようにすると、そしてまた、国民の皆様に情報提供するようにという指示を出しました」

 14日午後9時40分過ぎ、東京・渋谷のフランス料理店前。地震発生の一報で会食を切り上げた首相・安倍晋三は記者団にこう語ると、足早に官邸に向かい、地震の対応にあたった。

 初動は的確だったが、16日未明の「本震」が発生するころから、安倍官邸の弛緩ぶりが露呈する。

 本震を受け、安倍をはじめ続々と集まる官邸メンバーの中に官房副長官・萩生田光一の姿がなかった。就寝中で熊本の現地対策本部長の松本文明内閣府副大臣らからの電話に気づかなかったからだ。萩生田の秘書官も同様に朝まで官邸からの電話に気づくことはなかった。

 現地にいた松本の言動も問題視された。「バナナでもおにぎりでもいいから差し入れをお願いできないか」。本震があった16日、政府と熊本県をつなぐテレビ会議で、自身への食糧を要求。さらには、「被災者に(物資が)行き届かないのはあんたらの責任だ。政府に文句は言うな」と地元職員を怒鳴りつけるなど評判は散々。官邸は慌てて本部長を内閣府政務官・酒井庸行に交代させた。

 安倍の見通しの甘さもあった。

 熊本地震発生後も、24日に投開票を控えた衆院北海道5区補欠選挙の応援で北海道入りを予定していたのだ。16日に熊本の被災地を視察して、翌17日に北海道入り――安倍が判断した当時、死者はすでに9人、避難者が1万5000人を超え、気象庁も震度6クラスの余震に注意を繰り返していた。

 当然、官邸内でも反対論が挙がった。小泉純一郎首相秘書官だった内閣官房参与・飯島勲は、北海道入りの中止を提案した上で、「熊本の現地視察は17日の方がいい。政(まつりごと)とはそういうものだ」と、現首相秘書官・今井尚哉に忠告した。

 飯島の狙いは、17日放送予定の安倍とダウンタウン・松本人志が共演したフジテレビの情報バラエティー番組に、安倍の被災地視察をぶつけ、世間の耳目を番組から逸らすことだった。

 番組は地震前の14日に収録済みだった。そもそも、衆院補選の選挙期間中の首相出演は物議をかもしていた。このため番組では、政治問題には触れず、首相主催の「桜を見る会」の出席者の選ばれ方や、バドミントン日本代表選手の違法カジノでの賭博問題などが話題になった。

 首相と人気タレントとの共演は話題性十分で、補選との相乗効果を官邸が狙ったのは明らかだ。官邸サイドからの強い要望で出演が実現していた経緯もある。しかし大災害時に放映されては逆効果だ。飯島はそれを心配した。

 しかし、今井は「17日、熊本は雨なんですよ」と飯島を遮った。被災地視察と北海道入りの両立が可能な日程に固執した。安倍の意向に沿ったのは言うまでもない。

 結局、16日の本震で被害がさらに拡大し、いずれの日程も急遽キャンセルされた。フジテレビの番組も地震特番に差し替わったが、補選への焦りが空回りする後味の悪い出来事だった。

はてなブックマークに追加