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【鼎談書評】食いしん坊で臆病者――妹が見た姉の素顔

『姉・米原万里 思い出は食欲と共に』 (井上ユリ 著)

source : 文藝春秋 2016年8月号

genre : エンタメ, 読書

 

片山 10年前に亡くなった作家・米原万里さんについて、妹のユリさんが書かれたエッセイです。妹さんもお姉さんに優るとも劣らず個性的。お姉さんの「真実」を身内ならではの観察力でぐいぐい描きます。

 米原家は鳥取の大資産家ですね。お二人の祖父は高額納税者で貴族院議員にもなる。でもお二人の父、米原昶(いたる)さんは旧制一高時代から共産主義運動に身を投じ、16年間も地下に潜って、戦後は共産党の幹部になる。万里さんが9歳のときには国際共産主義運動の日本代表みたいなかたちで、一家でチェコスロバキア(当時)の首都、プラハに移り住みます。ソ連に招待されて黒海沿岸にある“赤いエリート”たちの超高級リゾートに滞在したり、ロシア語を学ぶためにと通ったソビエト学校でキャンプ生活を送ったり。64年に帰国する際に立ち寄った中国では、毛沢東の別荘に泊まり、天蓋付きのベッドで寝ている(笑)。「その後の人生の中でも、あれほど贅沢な建物に泊まったこともないし、見たこともない」とユリさんがいうくらいですから、さぞ豪勢だったのでしょう。

山内 一家が毛沢東の右腕と言われた康生や北京市長の彭真とテーブルを囲んだ写真もありましたよ。2人は文化大革命で対立する間柄です(笑)。エピソードの端々から、当時のコミュニズムがいかに力を持っていたのかがよくわかります。

片山 その生活は、国際的なものとプロレタリア的なものと貴族的なものが混在し、しかもアメリカ的なものからとても遠い。戦後日本人の暮らしや価値観の通常の振れ幅からは完全にはみだしています。異次元ですよ。この環境で“普通の日本人”が育つはずがない(笑)。

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