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宮下 奈都
2016/05/13

【この人の月間日記】羊と鋼と本屋大賞

お礼参りにテレビ収録……受賞直後の怒涛の日々

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : ビジネス, 働き方

本屋大賞の発表会

三月二十三日(水)

『羊と鋼の森』 (宮下奈都 著)

 Nothing's Carved In Stoneの名古屋ライブに行く。写真家の堀田芳香(高校の同級生)と、長男と三人。芳香はずっと彼らのアーティスト写真を撮ってきて仲がいい。楽屋にも顔を出すという。私は固辞するも、「せっかくここまで来て顔を出さなかったらかえって悪いって」とよくわからない説得をされ、おそるおそる挨拶をすることに。ヴォーカルの村松拓さんに「『羊と鋼の森』読みました。めっちゃ沁みました」といってもらって感極まる。楽屋で挨拶なんて百年早いわと思ったけど顔を出してよかった。ほんとによかった。

 NCISのライブはすごくかっこいい。いや、かっこいいっていうか、ええと、かっこいい。ドラムもベースもギターもものすごくうまいから、ヴォーカルが自由にのびのびといきいきと歌うことができている気がする。もちろん、ヴォーカルもすごくいいのだけれど、きっとこの先もっともっとよくなるだろうと期待させてくれるところも魅力だと思う(NCISについてはいくらでも書けるし書きたいのだが、延々とレポートしてしまいそうなので慎む)。

 ライブが終わったら名古屋駅にダッシュ。福井へ帰るためには、米原に停車する最終のひかりに乗らねばならない。東京へ戻る芳香と駅で別れ、ホームへ駆け下りたところへ新幹線が滑り込んできた。よかったねぇ、間に合ったねぇ。新幹線が走り出してホッとして、何気なく時計を見て、あれ? と思う。時間がおかしい。発車時刻にはまだ早い。え? ということは? 乗り間違えました。だってまさか同じホームから十分も違わないで新幹線が発着するなんて思わないでしょう。そんなのありえないでしょう。と思ったけれども、次の停車駅は京都。やっぱりのぞみだった。福井で暮らしていると、各駅停車でも一時間に二本、東京へ行く特急は一時間に一本、という環境なので、まさか同じホームの同じ番線から新幹線が十分間隔で発車するなんて考えられなかった。隣席の息子に間違えたことを話したら、「あらー」とのんきな声を出した。

撮影・堀田芳香

「いや、乗るはずの電車、最終だったから。これ、もう帰れないから」

 事態の深刻さを語ると、

「じゃあ、京都からどこまで戻れるか、もしくは京都で泊まれるか、調べよう」

 飄々という。たしかにそれがいい。でも、息子はスマホを持っていない。今月、解約してしまったのだ。つまり私が調べるのか。京都に着くまでにそれを調べきれるのか、甚だ自信がない。夫に電話をして状況を説明する。すぐにパソコンで調べて折り返してくれた。京都に泊まるしか道はなかった。むすめが電話口に出たので、

「ごめんね、今日帰れないんだって」

 謝ると、

「気をつけてね。そんで、八つ橋買ってきてねー」

 楽しそうに返されて、ちょっと元気が出た。

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