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8月23日、カープに起きた「奇跡」をもう一度

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/08/29

「数々経験してきた試合のなかでいちばんの思い出になる試合かもしれない」

 試合後の談話で緒方監督にそう言わせた8月23日の試合。

 緒方監督と一ファンである私とではまったく立ち位置と見方が違うのは承知の上で、私もまったく同じ気もちである。

 対スワローズ。カープの12勝5敗で迎えた18回戦。このカード3連戦としては1勝1敗で迎えていた。スワローズ的に見れば直前まで3カード連続で勝ち越していて2位に浮上。あとひとつ勝てば借金がなくなる、勝率5割復帰。マジックが点灯しているカープ以外の5チームがすべて借金生活をしているなか、5割に復帰すればその意味は実質としても精神的にも大きい。AクラスCS出場はもちろん、マジックの対象チームであるということは大逆転優勝の可能性もあり、勝率が5割に復帰すればその可能性は増す。

 そして見事、勝ちに向かう執念の物凄さだろうか、3カード初戦を9回ツーアウトから同点に追いつき延長に突入、延長10回には一挙5点を獲得して突き放した。

 勝率5割復帰を果たしたのである。

 翌日はカープが勝利。スワローズの勝率は5割を割り込んだ。

 そこで迎えたカード第3戦。両チームともに勝ち越しがかかっているがスワローズにとっては前述したようにここまで3カード連続勝ち越しで広島に乗り込んできており、走攻守、チーム状態もすこぶるよく、先発が前の試合で完封勝利した原樹里ということもあり、もしかしたらというムードはあった。いや、もしかしたら、というより、順当に行けばスワローズが勝つ雰囲気だった。

 その雰囲気を現実のものにするかのようにゲームは展開された。

 4回終了時で7ー0。

 再度スワローズが5割復帰。

 カープ的にいえばここでカード負け越してもV3に向けてそれほど空気が悪くなるわけでもなく、2年前の日本シリーズ敗退、去年のCS敗退を乗り越えるためにはいままでと違った調整なり準備なりをしなければならないのは間違いなく、そのためにはひとつひとつの勝ちよりもたいせつななにかを見極めるために一試合一試合を使っていくべきなのだろうかという気持ちもある、というか、ないではない。みたいなところに気持ちを持っていけば一ファンの私としては耐えられなくはない一敗になるかもしれない。みたいな。そんな気持ちでテレビ中継を眺めていた。

8月23日の夜、私が思ったこと

 が。

 が。

 が。なのである。

 あの日あの時。8月23日の夜。

 私はカープが追い付くような気がしていた。

 そしてさらにいえば勝つかもしれないと思っていた。

 みなさん、これはオカルトではありません。

 本当の気持ちです。

 気持ちだから立証するのは不可能ですが勝つかもしれないと思っていた。

 7点差あったからそれはかすかなものではあったかもしれないが。逆転のカープと呼ばれ、何度も何度も何十回も、この数年、凄い逆転劇を見せてくれたカープに対する刷り込みであろう。何度となく実現する大逆転劇はドラマティックな展開という次元を超えて「あるかもしれない」というところまでは来ている。

 いや、それはいいことばかりでなく、3試合連続サヨナラ負けを喫した昨年夏のベイスターズ相手の悲劇を体験して、「試合は下駄を履くまでわからない」ということをカープはベンチも選手もファンもよーく認識している。

 と、それは整合性のある、頭で理解できる部分の話。

 が、それとはまた違ったなにかをこの日、私は感じていた。

 事実、じわじわと得点を重ね、回を重ねるにつれて点差は詰まった。が、また開いたりもした。なので追いつきそうだが追いつかない試合になるかとも思われた。

 8回の打順は6番からだが西川、田中、會澤というおいしいとこ。打線的には下位だが1番、2番、3番でもおかしくないところ。スワローズの近藤投手には申し訳ないが、そのときの点差が3点。追いつくならここだと思ったし、追いつけなくはないような気がしたし、追いつくのではないかという気がした。

 だが現実は三者凡退。「世の中、思ったようにはならない」というのは世の中を生きていくうえでたいせつな学習事項である。それを学ばせていただいた。