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連載高野秀行のヘンな食べもの

2018/08/08

 お味はどうか。もともと中国のビールはアルコール度数が低い。たいてい2・8%程度である。その薄いビールを十分も強火にかければ酒の成分はすっかり飛んでしまう。だから、匂いを嗅いでも、ふつうの炒め物の芳ばしい匂いしかしない。食べても同様。ふつうに美味いアヒル肉の炒め物だ。なあ~んだ、と拍子抜けしたのだが、そのうち気づくと、このアヒル肉ばかりすごい勢いで食べている。

 美味なのだ。なにしろ肉が柔らかい。アヒルは鶏に比べると、肉が骨にぎゅっとしがみつきはがしづらいのだが、これは箸でつまむとほろっと何の未練もなくこちらに身をゆだねるようにはがれ落ちる。うーん、酒を入れたからこその柔らかさなのだろう。

 でも、なぜ白酒や焼酎などではなくビールなのか。推測するに、他の酒だとアヒル肉に余計な風味がつくからじゃないか。もちろん、酒の風味はそれはそれで美味いという考え方もできるが、ここの人たちはそう思わないのかもしれない。ビールの値段があまりにも安いので料理酒として使えるということもあるだろう。

 それからビールは量が多いので、鍋全体に広く行き渡りやすいとも考えられる。その結果、ビールはあくまで裏方に徹して、ここの地アヒル本来の風味を最大限いかしているのではないか。

 ビールアヒル、バカにして済まなかった。万人にお勧めしたい、面白くて美味しい中国の地方料理だ。

ビール効果で柔らかくなったアヒル肉は抜群に美味

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